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ただそう言って疑問を口にしただけだったのに。
「ええッ!? 二人って同じ医大でしかも同期で、仲のいい同僚なのに。そんなことも知らなかったのッ!?」
おじさんからは、喚くような声とわざとらしいほどのオーバーリアクションを返されてしまった。
尚も、オマケとばかりに、余計な一言まで付け加えられる羽目にも。
「……いや、でも、大抵の医者なら知ってると思うんだけど」
そんなこと言われたって、知らないんだからしょうがないじゃない。知ってたら訊いたりしないし。
ーーそんなことより、私と窪塚が『仲のいい同僚』って、何おかしなこと言ってくれちゃってんの? バカなの? うん、バカなのね。
驚愕な表情で私のことを二度見した後で、おじさんが私と窪塚のことを見比べるようにして見やっている様子を絶対零度の冷視線で見上げていると。
おじさんの代わりに窪塚の方から言葉が返ってきた。
「……親父と比べられたりするのが嫌だったんで、ずっと伏せてありましたから。高梨が知らないのも無理ないですよ。なので、これまで通り、親父のことは伏せておいて下さい。お願いします」
言葉のニュアンスから、父親が有名な外科医であるらしいことは窺えたし。
どうやらおじさんが以前にも窪塚から父親のことを伏せておくように頼まれていたらしいのに、スッカリ忘れちゃってるらしいことには、親戚として恥ずかしかったし、心底呆れちゃったけど。
もう、ここまで話しちゃってるんだから、誰かくらい教えてくれたっていいんじゃないだろうか。
胸中で毒づいて、おじさんに改まって頭なんか下げちゃってる窪塚の後頭部を見下ろしつつ。
ーー禿げてしまえ。
なんて、念を送っていると、不意にある医学雑誌の特集記事の見開きにデカデカと掲載されていた、ある男性外科医の写真が脳裏に浮かび上がってきた。
それは、つい数時間前まで珍しい症例のことを詳しく調べていた時に、たまたま目にしたモノだ。
その男性外科医というのは、脳神経外科の権威で、いわゆる『神の手』を持つ天才外科医と巷で取り沙汰されている、確か名前が"窪塚圭一"って言ってたような気が……って。
ーーええッ!? まさか、あの『神の手』が窪塚の父親!?
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