出会い

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出会い

 夏の間、僕は母方の親戚の家に下宿することになった。 お母さんの従姉妹の家。 県内だけどかなり山の方、つまり田舎だ。 お父さんは「車で送ってやろうか」と言ってくれたけれど、 せっかくだから初めからぜんぶ一人で行くことに決めた。  玄関を出て、駅まで歩いて、電車に乗って、駅を降りて、バスに乗って。 四六時中乗り物に揺られるだけの旅路だったけれど、 ここからはもう歩くしかないという場所まで辿り着いた頃には、 家を出てまだ薄暗かった空は、 夏の暑い日差しがかんかんと照るようになっていて、 この炎天下を歩く僕を後悔させようとする。  やっぱり車で送ってもらうべきだったかな。  吹き出す汗はその思いを洗い流してはくれないし、 むしろ襟口なんかに染み込むと共に、 自分の選択が間違っていたことを思い知らされる。
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