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「川に行きたいの?」
「うん。スイカを冷やしてって、ヤスオさんが」
「またあのおばあさんからもらったのかな」
「セツコさんから貰ったって。
でもエツコさんには言わないでほしいらしいから」
「だと思った。母さんはあの人が嫌いだから」
「そんなに嫌いなんだ」
「だいぶ前に貰ってきたスイカなんて、冷やしもせずに捨てちゃったんだ。
父さんがどこにやったのか聞いたら、『ごみは捨てました』って」
「どうしてそこまで……」
あのエツコさんがすることとは到底思えない。
田舎の人間関係はどうも釈然としないものがあると覚悟はしていたけれど、
こうも身近な所にいざこざがあると、やっぱりモヤモヤした気分になる。
まあ、本当のことは当事者同士にしか分からないことだから、
外野の僕は口を噤んでいよう。
「これカゴに入るの?」
ユキミくんは僕の持つスイカを見て言う。
「わからない。やってみないと」
チャレンジ精神だけが取り柄な僕だから、
圧倒的な逆境であったとしても、挑むことしか知らないのだ。
という風に、どすっと少し錆びた網カゴにスイカを載せようとしたら、
案の定、スイカの大きさはカゴの容積を遥かにオーバーしていた。
「ちょっと大きいね、スイカ」
「どうしようかな……。まあでも、抜けなさそうだから大丈夫だよ」
スイカは確かに入り切らなかったけれど、同時に、窮屈そうに籠に嵌って、
そう易易とは抜けそうにない。
だから僕たちはこのまま、スイカを川まで持っていくことにした。
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