水遊び

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 「ここに入れようよ」 ユキミくんはちょうどいい大きさの窪みを見つけて、指をさす。 窪みは大きな石に囲まれていて、その隙間を緩やかに水が流れている。 ここならスイカも流されないだろうし、そこそこの深みもあるから、 頭までとはいかないかれど、この大きなスイカも十分に水に浸るだろう。 「うん、そうしよう」 ぽちゃんとスイカは溜まりに沈んで、 しばらくはクルクルと回って、いつの間にか動きの落ち着く場所に自分から収まる。  「冷えるまでどれぐらい掛かるのかな」 「たぶん一時間ぐらいじゃないかな」 「一時間……暇だね」 「まあ、そうだね」 「なら遊ぼうよ」 「遊ぶって、どこで」 そう僕が言うと、ユキミくんはニッコリと笑って、 「川で」 と、指を指した。  「危ないよ」と僕は口ずさむ。 水が苦手なわけじゃないけれど、川に入ったことは一度もない。 だから、川遊びにはニュースの一文が紐付いていて、 それはお世辞にもいい文言じゃない。 「大丈夫だよ。この川は浅いし、僕は何回も入ってるから」 だからほらと、ユキミくんは僕を急かす。 そのままの姿で水に浸かっていく勢い。 「でも――」 僕は踏ん切りが付かなかった。 だから、 「やっぱり、イヤなの?」 と、彼を困らせてしまう。  眉の下がった、 心底僕のことを思っているのがわかるその悲しげな顔を見て、 僕は自分の情けなさに心のなかで檄を飛ばす。 彼とのふれあいを邪な気持ちで望む僕がいることを、今になって思い知る。 僕は僕の望む優しさしか彼に与えていないんだ。 自転車に一緒に乗ったのも、僕が自転車に乗れるから。 僕が乗り方を教えてあげられるから。 僕の望むあり方を、僕は彼に押し付けていたんだ。  でもきっとユキミくんはまっさらな心で、 純粋に僕と遊びたいだけなんだろう。 なんて僕はひどい人間なんだ。 川に入るのが少し怖いくらい、なんてことはないだろうに。  「ううん、嫌じゃない」 「じゃあ」 とユキミくんは喜ぶ。  「靴脱がないと」 「あ、そうだね。じゃないと濡れちゃう」 「ズボンの裾も捲くっておこう。じゃないとエツコさんに怒られるかも」 「はは、たしかに怒るかも。 『家を水浸しにしてどうするつもりですか』って」 「今のすごい似てる」 「そうかな? いつもあんまり似てないって言われるんだけど」
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