水遊び

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 ざわざわと温い風に木々が(そよ)いでいる。 まるで、僕のこの不安と興奮が入り混じった気持ちを代弁しているかのように。  「滑っちゃうところとかあるから一緒に行こう」 そうやって差し伸べられたユキミくんの両の手を取る。 すこしひんやりとした手。 細い氷柱のような彼の指を握って、 僕はゆっくりと川の真ん中へと進んでいく。 「そこ、気をつけてね」 「うん、わかったよ」 「まあ大したこと無いんだけどね」 一歩、また一歩と進んで、僕たちは深みへと沈んでいく。 足を撫でる川の流れの冷淡さは、 握る手のだんだんと宿る温もりに忘れ去られていって、 気付けば、僕たちはの膝はもうすでに水の中にあった。  「冷たくて気持ちいいでしょ」 「うん」 「昔はなんかちっちゃい魚がいたりしたんだけど……」 周りを見回して、岩下の窪みを見つける。 「こういうとこにいたりするのかも」 どぼんと手を突っ込んでユキミくんは川の中を(さら)う。 だけど、土がもわっと広がるばかりで、生き物の気配は何もない。 すると、 「うわぁ!」 「なに! どうしたの?」 「なんかいる! 手、噛んでる!」 「ほら早く」とユキミくんに急かされて、 僕は岩陰を覗き込む。 「冷た!」 「ふふふ、引っかかった」 魚に手を噛まれたなんてとんだ嘘っぱちで、 僕はまんまと水を被せられてしまったのだった。 水しぶきに鳥肌が立つ。学校のプールとまではいかないけれど、 そこそこ冷えた水を体に受けて、心臓がキュッと縮こまる感覚。  別に怒ってなんかいない。  最悪なのは、そのせいで転んでしまったこと。  ははは、とユキミくんは川の中に転んで水浸しになった僕を笑う。  それがあんまりにも続くから、僕も次第にムカムカしてきて 「うわなに! ちょっと!」 「まだまだ!」 僕は間髪入れずに、ばしゃばしゃと水を掛ける。 そうなると、ユキミくんもやられっぱなしのままでいるわけがなくて、 今までよりも目に見えて水量の多い、 手で掬い上げた水を僕の頭にぶちまける。 僕はその報復にもっと水を掬って投げて、ユキミくんもまた仕返して……。 そんなことを繰り返しているうちに、 「もう君のせいですっかりビショビショだよ」 顔の雫を拭って、濡れた髪の毛を彼は上げる。 その表情はまだまだやる気に満ちていて、このままでは僕はもっと悲惨な目にあうことは、誰が見ても明らか。 だから、 「疲れた。もう降参するよ」 「ええー、もう終わり?」 「うん。じゃないと風邪ひいちゃうよ」 うーんそうだけれど、とユキミくんはまだ物足りないみたいだったけれど、 「じゃあ、えい!」 終わりの一発を僕が食らって、今日の水合戦は僕の負けに終わった。
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