水遊び

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 「このスイカ、すごく甘いね」 ユキミくんは僕を見て笑う。 食べかけのスイカからは丁寧に種が取られていて、 小取皿の上には白黒の種とまだほんのりと赤が残った皮が避けられている。  あの安っぽいスイカにありがちな、 スポンジを食べているような不快感なんてどこにもない、 しっかりと詰まった甘い身に齧り付くと、 夏という季節の良さを噛み締めているように思える。  「あ、見て! あそこにカエル!」 縁側から突き出した足をばたつかせて、ユキミくんはカエルの方へ指を指す。 山肌がむき出しな裏山は常に家の日陰にあるからジメッとしていて、 だからカエルもこの場所を好むのだろうか。小さな側溝に生えた雑草の上に、 きれいな緑色をしたアマガエルが座っていた。 「ねえ? カエルはスイカを食べられるのかな?」 「カエルはスイカ食べないと思うよ」 「本当に? じゃあ試してみようよ」 素足のままユキミくんは砂利の散らばった地面に降りて、その手のスイカを カエルに差し出そうとする。 が、しかし、当然のごとくカエルは突然の人に驚いて、どこかへと飛び逃げてしまった。 「ああ、いっちゃった」 「足、大丈夫?」 「うん。平気だよ。でもこのまま家に上がったら、またお母さんに叱られるかな」 「勝手口に回って。タオルを持ってくるから」  うん、とユキミくんはスタスタと勝手口へ向かった。 僕はテキトウにタオルを掴んで、蛇口で濡らす。 勝手に洗濯物を増やして怒られないだろうかと心配になったが、 自分で洗えば済むことだと気が付くまでにそう時間は掛からなかった。  僕は前屈みになって、湿った土に汚れた足を拭こうとする。 段差がかなりあるから、 「ちょっと足上げて」 「うん」 白くて細長い足。 彼の透き通った手先のように、 たとえ足であってもその美しさは変わらない。 「ふふ、ちょっとくすぐったいよ」 「まだ駄目だよ。足の間も、ほら」 クススと、僕が足を拭く度にユキミくんは笑って、 それがどこか僕にはイケナイコトのように思ってしまった。
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