水遊び

11/11
前へ
/56ページ
次へ
 「君は怒ってる? 僕のせいであんなことになったの」 ユキミくんは突然僕に聞いてきた。 スイカの皮を軒下に並べて乾かしていると、彼は神妙な顔つきをしてそう呟く。 「怒ってなんかないよ。むしろ、ありがとう。 すごく楽しかった。今までみたいにずっと家に居てばっかりだったら、 僕はこんなことしてなかったと思う。だから、良かったと思う」 「そう」ユキミくんは僕をじっと見て、 「よかった」 そう言って笑った。 しとやかな笑顔。けれど僕はそこに、さっきのエツコさんの面影を、 あの物憂げな美貌を見て取って、ありもしない緊張を感じてしまった。  それっきり僕たちの会話は無かった。 足を拭き終わると、ユキミくんは「おやすみ」と二階に上がっていった。  それから、スイカの皮を捨てたり皿を洗ったりしていると、 酔ったヤスオさんと、それを抱えるエツコさんが帰ってきた。 僕は玄関に二人を迎えに行く。  「風呂はもう入ったのかい」 赤い顔のヤスオさんが僕に聞く。 「いや、まだです」 「そうかい、だったら先に入るといいよ」 「じゃあ、お先に失礼します」 うん、とヤスオさんは居間に戻っていく。 先に上がっていたエツコさんと、なにか言い合っている声が聞こえたけれど、 僕はもうヘトヘトになっていたから、さっさと脱衣所に向かっていった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加