水遊び

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水遊び

 「スイカを冷やしてきてくれないか」 ヤスオさんは大きなスイカを引っ提げて、軽トラから居りてきた。 「近所の節子さんからもらってきたんだ」 「せつこさん?」 「僕がこっちに引っ越してきた時からの付き合いで、 色々と田舎暮らしってもんを教えてもらったりしたんだよ それこそ畑いじりとか」 「そうなんですか」 「けどまあ気難しい人でね。 あの人も悪い人じゃないんだけれど、家内とは仲が悪くって。 スイカのこと聞かれたら、買ってきたって言っといて」 節子さんという人については顔も知らない人だし、 多分、今後も一生僕の人生には関わらない人間だろう。 だから彼女とこの家の人間関係には興味がないし、 ヤスオさんの言いつけは守る。 緑が綺麗で、傷もほとんどない。 叩けば鈍く響く中身は、かなりのものが詰まっているように思える。 「けど冷やすって、冷蔵庫に入れるんですか?」 「いや。上に川があるんだ。冷たくてきれいな水が流れている。 そこに置いといてくれないか。一時間もあればおいしい冷たさになるさ。 冷蔵庫じゃ冷えすぎて頭が痛くなる」 たしかに、冷蔵庫のスイカは時々、味の感じられなくなるぐらい キンキンに冷えてしまうことがある。僕は一回それで腹を壊したこともあるから、 ヤスオさんの意見に大賛成だった。 「自転車で行くといい。坂道は辛いが、手持ちで行くよりはマシだから。 あと、ユキミも連れてくといい。川への路はあの子がよく知ってる」 そう言い残してまたヤスオさんは軽トラに乗り込んで、どこかに行ってしまった。
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