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『フェブラリ=アクエリアス VS スート』
弐ノ国『知の王』フェブラリ=アクエリアス 。彼女は知的な見た目をしていた。細いフレームの丸メガネと小脇に抱えた「本」が、その印象を色濃くしているものと思われる。
「───なるほど。それならいいよ」
スートは、アクエリアスの要求を呑んだ。
闘いを嫌がるスートに対して、アクエリアスは「それならゲームをしましょう」と提案したのだ。
最初は難色を示したスートであったが、彼女がゲームの国の王と聞いては、話に乗る意思を見せたのであった。
「それでは早速ルール説明を───」
「ちょっと待って」
小脇に抱えた一冊の「本」を両手に持ち替え、ゲームの説明を始めようとしていたアクエリアスを遮るかたちで、スートは何処からか「カード」を取り出した。
「せっかくの王様とのゲームだからね。勝負の前に結果を占って余興にしよう」
テーブルゲームのディーラーのように、体の前で片手を左から右に動かすと、数十枚のカードが裏向きの状態で展開された。
まるで空中に見えない机があるかのような光景である。
その内の一枚を引き、表にする。そこには「逆さまの人間」が描かれていた。
「『吊し人』の逆位置か。いい結果とはいえないね」
スートはカードを指で挟み、不敵な笑みを浮かべた。
それからアクエリアスに笑みを向け、説明の続きを促す。
アクエリアスは困惑顔で視線を「本」に落とした後、何か思い当たったようにスートに視線を戻した。
「そういえば、貴方に会ったら尋ねてみようと思っていたことがありました」
「王様が僕に?どんな質問かな?」
「人は何のために生きていると思いますか」
アクエリアスの唐突な問いに、スートは少し考える素振りを見せてから、こう答えた。
「快楽を味わうため、かな」
説明を求める視線で、アクエリアスが丸メガネの奥からじっと見つめる。
「ヒトの行動、その全ての裏には欲がある。その欲の根源は、快楽さ。そして、その快楽を味わうために、ヒトは必死になって労働をする。全くヒトは矛盾の生き物だよ」
つらつらと語るスートの言葉を咀嚼するように、アクエリアスは深く頷いた。
「貴方が勝負師として優秀な理由がよくわかりました。ゲームに戻りましょう」
アクエリアスは、手元の「本」をゆっくりと開いた。
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