7人が本棚に入れています
本棚に追加
「いったい何を考えているんですか!?」
わけがわからない、と言わんばかりの顔でアクエリアスが声を荒げる。
ゲーム開始早々、スートがアクエリアスの顔面に飛ばしたモノ。それは、「金貨」であった。
スートの才、それは『アルカナ』。カードにそれぞれ付与された能力を自在に扱うというモノだ。
ゲーム開始前、スートは3枚のカードをオープンした。
そこに描かれていた「杖」「聖杯」「金貨」の絵柄は、それぞれ能力の概要を示していたのだ。
そうして具現化された「金貨」をスートはアクエリアスの顔面めがけて器用に弾いた訳だが、アクエリアスが驚いたのは、スートがいきなり攻撃を仕掛けたことにあった。
『曖昧Meマイン』が始まった。
それすなわち、相手の「ユアマイン」に衝撃を与えれば、自分が死ぬということ。
もしもアクエリアスが「金貨」を避けず、アクエリアスの「ユアマイン」が顔面に設置されていたのなら、スートは今ごろ死んでいたのだ。
「そんなに驚くことはないだろ。寧ろ定石だよ」
スートは、なんでもない調子で口を開いた。
「このゲームの勝利条件は二つに一つ。自分の『ユアマイン』を相手に踏ませるか、相手の『マイマイン』を踏むか。つまり完全な勝利を収めるには、相手の動きを誘導するか、地雷を見つけ出すしかないわけだ」
スートの言う通り、自分は無事で、相手だけを爆発させようと思えば、その2択となる。
「それで実質的な時間制限のルールを提案したら、王様はあっさり受け入れた。つまりは、このゲームが長期戦になるとは思っていない。僕に与えられた時間は限られているというわけだ」
ペラペラと喋り続けるスート。
「となれば、多少のリスクを負ってでも相手の地雷を見つけることに努めるべきだ。誘導には、どうしても時間が掛かるからね」
「・・時間がない状態で地雷を見つけるには、意表を突いた先制攻撃が効果的だと。そう判断したわけですか」
「その通り」
『マイン』の設置場所。ソレには戦略と性格が色濃くでる。
『マイマイン』は頭や心臓といった人としての元々の弱点に重ね、『ユアマイン』は機動力に定評のある部位に設置する。
プレイヤーの心理としては一旦この考えが過ぎるところだが、最終的にどう判断するかはプレイヤーの性格次第だろう。
「リスクに見合ったリターンは頂戴したよ」
スートの口角がニヤリと上がる。
「想定外の一撃だろうが、頭部に『ユアマイン』を設置していれば、多少なりとも動きに出る筈だ。比較的簡単に頭部に動かせる部位、腕などに設置していた場合も同様にね。よって『ユアマイン』は首より下。誤爆を恐れて『マイマイン』とは位置を離すだろうから、脚部が第一候補かな。機動性もあるし」
真か偽か。アクエリアスの額に汗が浮かぶ。
もしもスートの推測が合っているなら、アクエリアスが自分の『ユアマイン』にスートを誘導することは、極めて困難になったと言えるだろう。
「命を賭けてるわけだし、ゲーム関係なしに頭部を狙っても良いけど、衝撃を与える位置を一点に絞るのは危険だし、何より面白みに欠ける。となれば、考えるべきは『マイマイン』の位置だけど──」
「そんなに悠長にしていて良いのですか」
今度は、アクエリアスがスートの呟きを遮る。
「おっと、そうだったね」
スートは、とぼけた顔をした。
彼がペラペラと持論を述べている間に、スートの「聖杯」の液体は、段々とアクエリアスの「聖杯」に移動していた。
スートが危惧していた時間が、それだけ経過していることの証明である。
「僕の方はひとまずこれで安心かな」
最初はなみなみに液体が注がれていたスートの「聖杯」だが、今では8割程度まで減っている。
器用なスートであれば、液体を溢さずにゲームを続行することも可能だろう。
「貴方は、このゲームは短期戦だと予測した。それは恐らく正解です」
アクエリアスが、「聖杯」を持つ手とは逆の掌を上に向ける。
「・・ほう。これは流石に予想外だね」
目を丸くするスートの視線の先。
そこには、一羽の「鳩」の姿があった。
最初のコメントを投稿しよう!