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「説明が欲しそうな顔をしているね」
アクエリアスの表情を覗き込むようにして、スートは体の後ろから「杖」を取り出した。
「もう一枚のカードの能力だよ。『疑似の杖』、触れた対象の見た目を変える代物さ」
ゲーム開始前にスートがオープンした3枚のカード。
その内の「杖」の能力により、「輪」の見た目を「金貨」に変化させていたというわけだ。
「その『輪』も、別のカードの能力だよ。大アルカナの一つ、『運命の輪』さ」
一枚のカードを指で挟み、ひらひらと揺らす。
カードの表には、「輪」の絵柄が描かれていた。
ソレを視界に映し、ここまで黙り込んでいたアクエリアスが、ゆっくりと口を開く。
「誤射によって『マメ吉さん』が行動不能になることは──」
「勿論、計算通りだよ」
完全に動きを止めた「マメ吉さん」に視線を向け、スートが満足そうな顔をする。
「あの物体の正体は、『ピンズ』でしょ」
「・・その通りです」
「マメ吉さん」の動きを止めたのがまぐれではなかったことを認め、アクエリアスは苦笑を浮かべた。
「ピンズ」。それは、弐ノ国産の豆。
その使用用途は多岐にわたり、強い衝撃を与えれば強力な捕縛剤に早変わりするという性質をもつ。
今回、スートは「マメ吉さん」が吐き出す「ナニカ」の正体が「ピンズ」と判った時点で、喉を詰まらせるという手を思いつき、実行したのであった。
「それにしても、地雷を除去する役割までこなすとは。『ピンズ』は本当に万能食材だね」
感心した顔でスートが頷く。
豊富な特性を持つ「ピンズ」は、弐ノ国の民にとって、なくてはならぬ存在だ。
「奇術師として、ハトには敬意を払わないとね」
続いて、カードを一枚オープンする。
そこに描かれていた絵柄は『隠者』。カードの能力か、スートの前に大きな「布」が出現し、その姿を一瞬隠した。
続いてスートは、眼前に広がる「布」を真っ二つに切り裂いた。刃物のようなモノを使った形跡はなく、恐らくは自身の才で生み出した「布」であるため、ある程度自在に操れるものと思われる。
二つに分かれた「布」はヒラヒラと舞い、二羽の「マメ吉さん」それぞれに覆いかぶさる形で着地。亡骸を隠した。
「さあ、フィナーレだ」
アクエリアスの「聖杯」に視線を向けて、スートが告げる。
この時点で、スートの「聖杯」は空に、アクエリアスの「聖杯」はなみなみに。それぞれ、ゲーム開始時とは逆の状態となっていた。
アクエリアスの「聖杯」からは、今にも液体が溢れそうである。
「貴方はこの『聖杯』が実質的な時間制限だと仰いましたが、そうじゃないと言ったらどうしますか?」
しかし、アクエリアスの表情には余裕が残っている。
スートが怪訝な表情を浮かべていると、アクエリアスは自分の「聖杯」を逆さまにした。
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