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「これはどういうことだい・・」
アクエリアスが逆さまにした「聖杯」。
物理法則に従うなら、なみなみに注がれた液体は溢れるはずだが、その様子は見られない。
「新たな『ルール』です」
アクエリアスは誇らしげな表情で答えた。
「『聖杯』の液体が溢れると、その持ち主が抱える弱点の位置が晒される。貴方が提案したこのルールに加えてもう一つ、特殊なルールを与えさせて貰いました」
アクエリアスが「聖杯」に与えた『ルール』。
それは、「聖杯」を逆さまにした時、そのモノに限り重力は逆向きに働き、尚且つ固定される、というものだ。
つまり、今のアクエリアスの「聖杯」は、彼女の動きによって溢れることは先ずない、ということになる。
「聖杯」の底を上から掴み、「聖杯」の口は下向きに。それでいて、中身は一切溢れない。
手品でも見ているような光景を前に、スートが薄く笑う。
「いいねえ。不思議は大好物だよ」
余裕を崩さないスートに、アクエリアスが「はぁ」とため息を一つ。
「その手は無駄ですよ」
アクエリアスの視線の先。
「聖杯」の下を向いた口の先に、一枚の「金貨」が転がり、到達していた。
「重力が逆向きとなった『聖杯』に『金貨』を入れ、液体を溢れさせる魂胆でしょうが、『聖杯』には液体以外のモノを受け入れない『ルール』も追加しておいたので、不可能です」
してやったり顔で、アクエリアスが続ける。
「・・」
思案顔で押し黙るスート。
「それから、貴方が言うように私はこのゲームを短期で終わらせるつもりでしたが、長期戦を望んでいないわけではありません」
アクエリアスの言葉を合図に、屋上の二箇所に変化があった。
それというのは、スートが真っ二つに切り裂いた『隠者』の「布」。
「マメ吉さん」の亡骸を隠していた筈の2枚の「布」はアクエリアスの眼前に集結。
再び繋がれた幕が剥がれた時、そこには一回り大きくなった、一羽の「鳩」の姿があった。
「『マメ吉さんEX』です。通常の「マメ吉さん」と比べて、全てのステータスが2倍だと思ってください」
『オニハソト!フクモソト!』
「マメ吉さんEX」は、「ピンズ」を口から発射しつつ、猛スピードでスートに迫った。
「・・コイツは参ったね」
アクエリアスの「聖杯」に注がれた液体を溢れさせることは困難となり、封じた「マメ吉さん」は更なる進化を遂げて舞い戻った。
客観的に見たスートの戦況は、かなり分が悪いように思える。
「奇術師として、ハトに乱暴な真似はしたくないけど──」
スートは一枚、「金貨」を取り出した。
『オニハソト!フクモソト!』
時を同じくして、「マメ吉さんEX」から一回り大きな「ピンズ」の塊が発射される。
スートはそれをギリギリで躱すと、取り出した「金貨」を「マメ吉さんEX」に向かって、力いっぱい弾いた。
「金貨」は真っ直ぐに飛び、「マメ吉さんEX」の眉間にヒット。
その直後、「金貨」は「杖」に変化した。
『オニモ・・フクモ・・』
して、「マメ吉さんEX」は、勢いよく燃えだした。
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