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雨は午後には上がった。路上には窪みに水たまりが出来上がり、私は足元に気をつけながら工事現場に急いだ。
私が到着すると、すでに坂本くんがいた。ジーンズに黄色いパーカーを着て、手持ち無沙汰に空を見上げていた。
「やあ、待たせたかな?」
坂本くんは私を認めるなり、軽く会釈をした。
「急に呼び出したりして悪かった」
「いえ。それより、大切な話ってなんですか?」
「君は察しがついてるじゃないか?」
私が試すように訊く。坂本くんは苦笑いをする。
「ここって、一か月前に柳町さんが亡くなった場所ですよね。片倉さんてロマンチストですか。まあ、いいです。話を聞きます」
「雨が上がってよかった。傘をさしたまま話すのは具合が悪いからちょうどよかった。結論から言う。柳町さんを殺したのは、坂本くん、君だね?」
坂本くんは表情一つ変えない。
「柳町さんは脳内出血で亡くなったんですよ。それは警察も発表していました」
「君の父親である小幡圭さんはおそらく、柳町さんとギャラのことで揉めていたんじゃないか。柳町さんのお店はコロナ禍で客足が減っていた。店は瀕死の状態だった。店を盛り上げなければもちろん、家族も路頭に迷うが、父親の遺志を継いで本来の役割を果たせなくなる。だから、とにかく柳町さんにはお金が必要だった...」
「だったら、父親とちゃんと話し合えばよかったのに」
「君の父親は話が通じる相手ではなかったんだろうね。まあ、とにかく柳町さんにとっては、自分はゴーストライターなのだから、もう少しギャラを弾んでもらってもいいと考えていた。しかし、話は平行線のまま。柳町さんは最後の手段に打って出た。つまり、自分が小幡圭のゴーストライターであることを世間に公表すること。君の父親は焦っただろうねえ。今まで自身の作品として発表してきた著作がまったく別人のものだと知れ渡れば、世間の読者は小幡圭を非難するだろう。非難だけならまだいい。作家生命を完全に断たれ、文壇から追放され、下手をしたら版元や関連会社から損害賠償すら請求されかねない」
「ならば、僕には動機がない」
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