感じる探偵 エピソード1 レインコートを着た死体

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 私の相手は柳町くんだ。彼はなかなか手強い。強烈なサーブが持ち味だ。中学生にしてはサーブの威力は高校生並み。油断はできない。  私はグリップを両手で握りしめ、構える。柳町くんはテニスボールを足元で何度もバウンドさせ、適当な間合いをとる。そして、ボールの軌跡を目で追うのだが、思った以上に伸び、ラケットに掠りもしないと聞いたことがある。  私は彼と初顔合わせで、彼のサーブを体感できることを心待ちにしていた。  柳町くんがサーブを打ってきた。しかし、思った以上に伸びはなかった。私はすぐに追いついてリターンを返す。リターンがコートの隅に深く入り、柳町くんは返すことができなかった。リターンエースだ。いきなり幸先がいい。  次のサーブもまったく威力がなく、簡単にリターンできた。高校生並みのサーブとは聞いていたが、並みの中学生レベル。一体彼はどしてしまったのだろう?  結局、マッチは私のストレートで幕を閉じた。  私は柳町くんの父親が三日前に突然亡くなってしまったことを知った。死因は脳出血。齢五十一だった。そうか。それで今日はサーブに元気がなかったわけだ。中学生ならまだ、精神は未熟だ。父親が亡くなったとなれば、塞ぎこむのもわかる。  それでも、練習に出て来たのは、父親の死を忘れるためだろうか?私にも経験があるが、何かを忘れるためには、何かに打ち込むしかない。
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