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「あるよ。君は父親を守ろうとした。そして、ゴーストライターを消し去り、ゴーストライターはこの世に存在しなかったことにした。君は父親にもう一度、自身の力で本を書いてほしかった。そのチャンスを与えようとしたんだ」
すると、坂本くんは腹を抱えて笑い出した。
「片倉さん、僕は父親の著作を生まれてから読んだことはありません。僕は父親を軽蔑しています。ゴーストライターを雇って書かせて自分の名声を守ろうとしている。そんな父親を尊敬する息子がいますか?」
坂本くんは怖い目をして私を睨みつけた。いまどきの中学生は思考回路がわからない。キレやすい子どもが増えていると聞く。もし、坂本くんが殺人犯なら私も何かされるのだろうか?
「では、この際、犯人は置いておこう。まず、犯人はなぜ、雨の日を選んだのか。私が頭をひねって考えた結果、犯人は途轍もなく頭の回る人物であることがわかった」
「へえ。片倉さんはどんな推理をしたのか、興味深いです」
私は一連の殺害方法を説明し、なぜ、雨の日なのか説明が始まった。
「犯人は柳町さんの頭上にいた。物音や気配を消すには雨の音は犯行の一助になった。そして、二つ目、坂本くんも知っていると思うが、テニスボールにはフェルトという微細な羽毛が表面についている。一説にはバウンドを安定させる作用があるらしい。頭上から打ち下ろしたテニスボールがものに当たれば、フェルトが付着してしまう。しかし、レインコートは大概がナイロン製だ。フェルトがつきにくい。フェルトが付着したとしても、天から降ってくる雨粒が洗い流してくれる。不審な点は完全に払しょくされる。そこまで犯人は計算していたことになる」
「片倉さん、いっそ、公務員を辞めて小説家にでもなった方がいいと思います。なんなら父親のゴーストライターなんてどうですか?」
私は無視して続けた。
「しかし、犯人は痛恨のミスをした。凶器となったボールを見失ってしまったことだ」
私は坂本くんの前に一歩近寄った。
「片倉さん、ソーシャルディスタンスですよ」
「この際、感染したって構わない。やったのは坂本くん、君だね?」
「どうして、僕だとわかったんですか?」
「以前、マッチをしただろう。君はサーブを一度もミスをしなかった。まるで君のサーブはロボットのように正確だった。その技術を殺人に利用したんだと思った」
坂本くんは再び笑い出した。その瞬間、雨が降り始めた。
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