感じる探偵 エピソード1 レインコートを着た死体

25/25
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
       十一月十日 火曜日  坂本くんは父親に伴われて警察署へ出頭した。父親でもある小幡圭もゴーストライターを雇っていたことを告白した。  坂本くんは父親のスマホを使って、柳町さんを呼び出した。メールの送信履歴も着信履歴もぬかりなく消去した。 犯行方法も犯行動機も、私の説明した通りだった。奪った原稿はすべて、シュレッダーにかけた。その作品は日の目を見ることなく消失した。  テニス教室は坂本くんの逮捕を受け、臨時の会議を開き、しばらく教室を閉鎖することに決定した。  そのことを美穂に伝えると、美穂はほんの少し、喜びを嚙み締めた。日曜日もうまくすれば、会えるねと言った。  私はまだ、美穂の気持ちがわからない。もう少し、タイミングを見てからでも遅くはないだろう。美穂だって将来のことは考えているはずだ。 「あのさあ、私思うんだ。婦人が言っていた、柳町さんの本来の役割って、実は父親の遺志を継いで弱者を助けることじゃなくて、真っ当に生きることじゃないかと思うんだ。つまりさ、ゴーストライターをしていること自体、真っ当ではないと考えた柳町さんは、自分がゴーストライターを降りたかった。だけど、小幡圭がそれを許さなかった。降りるための口実にギャラのつり上げを要求したんじゃないか...」  すると、電話口で美穂が黙り込んだ。 「もしもし、聞いてる?」 「片倉くんて、高校の頃から何も変わっていないね。そうやって人をよく捉えるところ。人ってそんな純粋じゃないよ。柳町さんは本当にお金が欲しくて、あのような脅迫まがいなことをしたのかもね」  私は不本意ながらも、電話口で頷くしかなかった。 「実はさ、日曜日も忙しくなるかもしれないんだ。ボランティアで探偵をやろうと思ってさ。今、ホームページを作成しているんだ」 「え?探偵?まさか、私の言ったこと、真に受けた?」 「いや。そうじゃないよ。誰かの役に立ちたくて。ごめんね。ぬか喜びさせてしまって」 「ううん。まあ、片倉くんはこうと決めたら突き進むことは知っているから。いい意味で意志が固い。悪い意味で融通が利かない。で、名前は決めたの?」 「うん。日曜日に活動するから、日曜探偵事務所って名付けた」 「どの程度、依頼が舞い込むやら。あ、もし、依頼がなければ、私が第一号になってもいいわよ」  私は失笑してしまいそうになり、思わずスマホを顔から遠ざけた。            END
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!