感じる探偵 エピソード1 レインコートを着た死体

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            十月七日 水曜日  長らく秋雨前線が留まっている関東地方に、いつ晴れ間が望めるか、期待の持てない日が続く。  そんな雨が降る中、まるで打ち捨てられたかのように、一人のレインコートを着た中年男がうつ伏せになって倒れていた。  まだ、息があったときに辛うじて動いたのか、何かを掴もうとするかのように左腕が伸びていた。  場所は最近のコロナ禍で工事が一時中断となった建設現場の一画。男は修行僧のように雨に打たれながら息絶えた。            十月十一日 日曜日  テニスコートにテニスボールが乱舞している。ラケットでテニスボールを打ち返す小気味よい音が響く。  秋雨前線が通過した空は青さを取り戻し、しばらく閉鎖していたコートに活気が戻った。ここは市が運営しているテニス教室。主に市内に通う中高生が対象で、講習代は無料。教える講師ももちろん、無給になる。  講師は主に市役所の職員。それもテニス経験者に限られ、腕前は折り紙付き。中にはプロを目指して講師もいる。レベルは中の上といっても過言ではない。  私のレベルはというと、中くらいか。過去に負った怪我がなければ、プロを目指してもおかしくはなかった。ただ、公務員になってから、安定した生活に胡坐をかいているわけではないが、プロになる情熱は影を潜めた。  だが、テニスという競技は好きで、どこかで携わっていきたい。その気持ちは今も昔も変わらない。  今日は対面式の練習。講師と生徒が一対一でコートに立ち、3セットのマッチを行う。講師は手加減なし。言ってみれば真剣勝負だ。
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