わたす、わたす。

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 ***  母の日当日。私は遊びに行くという名目で家を出て、近くの花屋さんに向かった。花言葉はいくつか調べてあるし、五月頃旬な花というのもざっくり調査してあるつもりだ。もし花屋さんに調べた花がなかったら、あるいは予算オーバーだったなら、純粋に花屋さんがおすすめしたお花で花束を作って貰おうと決めていた。お母さんは黄色が好きだ。なるべくその花の色を取り入れたいと思っていた。 「いらっしゃいませー」  初めて訪れる駅前の花屋、『フラワーショップ・タナハシ』。今日他にお客さんはいないようだった。私はカウンターまで行くと、あの、とそこにいた店員さんに声をかける。 「母の日にぴったりの、花束が欲しいんです。その、素敵な花言葉のお花があったらいいなって思うんですけど……」 「あら」  若い綺麗な女性の店員さんは、私が差し出したメモを 見ると目を輝かせた。名札には“田村有紀子(たむらゆきこ)”書いてある。 「ちょっと待ってくださいね、可愛いお客さん。このお花があるかどうか調べますから」 「ありがとうございます!あ、でも……予算、できれば千円くらいにしたいんです。他におすすめのお花があったらそれも教えてください」 「かしこまりました」  お花屋さんは自分の店にある花を全部把握しているのかと思ったが、そういうわけではないらしい。ちょっと大きなお店だから、新人の店員さんだとわかっていないことがあってもなんらおかしくはないのだろう。奥に引っ込んでいく店員さんを見送り、私はあちこちに並んだ花を眺めた。  母の日に送る花として何がいいのかをネットで調べたが、カーネーション以外にもたくさん候補が上がっていたのである。例えば、王道ならば薔薇の花。特に赤い薔薇、ピンクの薔薇は好ましいらしい。赤い薔薇には“愛情”、ピンクの薔薇には“感謝”の意味がある。母の日に相応しいのは間違いないだろう。  あとはそれ単体では主役になりづらいが、スイートピーの花言葉も良いものであるそうだ。“優しい思い出”なんて素敵ではないか。花束を華やかにしてくれる効果もあるし、これもおすすめだとネットには書いてあった。 「お待たせしました」
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