わたす、わたす。

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 やがてお店の奥から出てきた田村さんという店員さんは、その胸に花束を抱えていた。私はちょっとだけ驚いた。ぱっと見たところ、私が渡したメモとはだいぶ違うチョイスであるように見えたからである。  薔薇の花は入っているが、中心に鎮座しているのは赤やピンクではなく鮮やかな黄色い薔薇だ。さらにその隣にちょこんと鎮座しているのは、同じく黄色のチューリップである。  そしてその周囲をふわふわと飾りたてるように何本も添えられているのは、見たことのない綿毛のような白い可愛らしい花だった。さらに同じくふわふわの細い針のような不思議な花びらを持つ紫色の花も数本添えられている。こちらも愛らしい花だったが、私が見たことのあるものではなかった。 「えっと……」  意図を求めるように店員さんを見ると、説明しますね!と彼女はにこやかにほほ笑んだ。 「五月ですし、華やかな黄色を中心にまとめてみたんです。ピンクや赤の薔薇もいいですけど、黄色も素敵でしょう?お母さん、黄色はお嫌いでしたか?」 「い、いいえ!とっても綺麗です。チューリップも……」 「良かった!こちらの白いふわふわの花は、クローバーの花なんです。春にぴったりでしょう?“幸運”っていう意味があるんですよ。あとこちらの紫色のお花は“アザミ”。可愛らしくて、お客様にぴったりだと思って添えてみました。いかがですか?こちら、五百円でお売りしますよ!」 「さ、三百円!?」  千円出すつもりだったのに、たったの三百円。充分可愛い花束だし、母の好きな黄色の花もしっかり入っている。これは買いだ、と私は確信した。 「買います!」 「ありがとうございます」  綺麗に包んでもらい、お会計をしてもらう。お金を支払っていると、店員さんは“そうだ”と手を叩いて教えてくれた。 「せっかくですから、お母さんが幸せになれるようなおまじない、試してみますか?良ければお伝えしますよー」  おまじないは、とても簡単なものだった。お花を渡して、“それ”をするだけで大切な人を幸せにすることができるらしい。私は店員さんにお礼を言うと、そのままお店を出て――そこで、携帯が震えたことに気が付いた。  LANEを贈ってきたのは、朝乃叔母さん。 「え?」  叔母さんはただ一言、こう送ってきていた。 『今駅の改札前にいるの。急いで来てもらうことはできる?』
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