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先日逢った時と比べて、叔母さんは顔色が悪かった。体調が悪いというより、何か焦っているように見えるとでも言えばいいだろうか。私と、私が抱えている花束を見て、真っ先に言った言葉は。
「ごめん、あたしのせいね」
これだった。まったく意味がわからない。彼女は私に、駅前広場のベンチに座るように促した。そして私から花束を受け取ると、続けた――なんか嫌な予感がしたのよ、と。
「子供の頃から、ほんのちょこっとだけ霊感みたいなものがあるのよねあたし。といっても、なんとなく悪い予感がしたら当たるっていう程度のもんなんだけど」
「そうなの?」
「この花束、どこで買ったの?」
私は駅前のお店だと、正直に言った。そしたら、何故か叔母さんはその時の状況をさらに詳しく尋ねてくる。不思議に思いながらも、私は店員さんの名前も、その時の状況も事細かに語ったのだった。叔母さんの目は真剣で、大事な意味があるのだということは子供心によくわかったからである。
これでも、記憶力はいい方だ。ついさっきのやり取りを、一字一句再現するくらいは充分できた。私の話を聴いた叔母さんは、質が悪い、と一言吐き捨てるように言ったのである。
「黄色って、明るくて華やかなイメージなんだけど。ヨーロッパでは裏切りを連想させるってことで、あまり良い花言葉がつかないことが多いのよ」
恐らく仕事の関係もあって、丁度いろいろ調べていたのだろう。彼女はこれ、と黄色の薔薇を指さして言った。
「黄色の薔薇には“友情”って意味もあるけど……まあ、母の日に相応しい言葉じゃないわね。それ以上にイメージとして強いのは“愛情の薄らぎ”“嫉妬”の方じゃないかしら」
「し、嫉妬!?」
「黄色のチューリップはもっと印象が良くない。“希望のない恋”“高慢”“いやなこと、忘恩”……」
「え、え……」
「クローバーには良い花言葉もあるけど、こういうのもある……“復讐”てのがね」
「ふっ」
「アザミも似たようなもんだわ。可愛い花だけど、全体的に花言葉はよくない。“独立”“報復”“厳格”“触れないで”……母の日なんかに贈ったら誤解されかねないものばかりよ」
「な、なんで」
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