わたす、わたす。

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 頭が、くらくらした。叔母さんが自分を騙すようなことを言う人間でないことはよく知っている。つまり、この花束は、作った人間の“悪意”がたっぷりこもっていることに他ならないではないか。  この花束を作った人間は、母に、あるいは自分達に復讐がしたかったとでもいうのか?ということは、もしやあのおまじないも――。 「お祓いに行った方がいいと思うわ、癒子ちゃん」  最後に叔母は、真剣な顔で私の手を引いた。 「あたしの記憶違いならいいんだけど。あんたのお母さん、結婚前にちょっとトラブルに巻き込まれてるのよ。お父さんの前カノが、お父さんに対してストーカーみたいな行為をしてたみたいでね。……その女の名前、“ユキコ”だったような気がするの」  後日。  私が調べると、その日フラワーショップ・タナハシは“臨時休業”になっていた。不運にも母の日の数日前に、店長夫婦が揃って病気で倒れて、緊急で休む羽目になってしまったのだという。つまり、私は開いていないはずの店で買い物をしていたということになる。ついでに言えば、後に尋ねたところ田村有紀子なんて店員はいない、と店長さんには言われてしまった。  お父さんの元カノ、にしては随分若い姿であったあの女性。  過去、お母さんとお父さん、そして田村有紀子の間に一体何があったのか。私は怖くて、とても二人に尋ねることができなかった。 『おまじないはね、花束を渡してこう言えばいいんですよ』  今でもあの店員の、朗らかな声が耳について離れない。 『お母さんありがとう!私はこの通りのことを望みます、どこまでも一緒に行きます!……これだけ。きっとお母さん、すごく喜んでくれると思うわ』  あのおまじないを実行していたら、自分達は二人そろって地獄に堕ちていたのだろうか。  今となっては、知る術はない。
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