わたす、わたす。

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わたす、わたす。

 2021年の母の日は、五月九日の日曜日。お小遣いも溜まってきたことであるし、そろそろ小学五年生の私もお母さんにまともな贈り物をしたいところである。 「うーん……」  悩んでいるのは、何を贈るのがいいのかということ。私はケーキ屋さんの前で、うんうん唸っていた。母はケーキが好きだ。当日にサプライズで買って持っていったら、きっと喜んでくれると思われる。ただ、サプライズ、である以上事前に母に教えることができないのが問題だ。つまり、その日に限って母が晩御飯にご馳走を予定している、なんてことになることもなくはないのである。  母は甘いものが大好きだったが、比較的小食な方なのだ。ご馳走を作って待っていてくれるところに、ケーキなんて買っていったら食べきれないかもしれない。それはそれできっと、申し訳ない気持ちにさせてしまうことだろう。 ――小さなシュークリームとかなら大丈夫かな?でもそれだと、なんか母の日っぽくない気がするよね……。  どうせ贈るならそれなりに立派なものがいい。  ただし、小学生の予算を越えないものでなければいけない。月五百円のお小遣いは、溜めに溜めてやっと二千円に到達したところだ。それ以上高いものは買えないし、父の日や両親の誕生日、結婚記念日にも何かを贈ることを考えるならば全額使ってしまうのはまずいだろう。もっと言うと、友達と遊ぶ時に最低でも交通費は必要になってくる。東京まで遊びに行ったらそれなりの額がかかるのは避けられない。やはり、二千円全て使い切ってしまうのはさすがに厳しいものがある。  千円そこそこで、何か美味しいもの。  あるいは母が喜ぶものとは、一体なんだろうか。 ――お菓子?アクセサリー……は、私が買える程度のものじゃ安っぽくて、お母さんには似合わないよね……。  仕方なくケーキ屋さんを出た、その時だった。 「あら?癒子(ゆこ)ちゃん?」 「あ」  私は目をまんまるにした。そこにいるのは、久しぶりに見かける顔だ。 「朝乃(あさの)叔母さん!久しぶり!」  お母さんのお姉さん。いつも大らかで気前のいい叔母の朝乃がそこに立っていた。彼女は紙袋を抱えて、やっほー!とにこやかに手を振ってきたのである。
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