第1話 ようこそ「勿忘荘」へ

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 中庭には当然誰もいなくて、静かだった。  それに対してリビングからは、楽しそうな声や物音が聞こえてきて、それがなんとなく、私の心を寂しくさせた。  自分の部屋に入っても、何もすることがなかった。  荷ほどきするほどの荷物も家具もないし、テレビもパソコンもないから、無音の時間だけが流れた。  一人暮らしといえばこういうもの、という空気だとは思ったし、これを覚悟してここに引っ越してきたわけだけど、さっきまではとても一人暮らしとは思えないにぎやかさと人の温かさに触れていたので、この落差はかなり堪えた。  一人になると、どうしても考えてしまう。今後のこととか、過去のこととか。  窓の外がすっかり暗くなっていて、それを見ると私の気持ちもますます暗くなってしまった。  部屋の壁に寄りかかって、体育座りをする。ささくれてるときの癖だ。  こうなったらもう、止められなかった。  理由がないわけではないけど、まったく脈絡のないこの場面で、私は一人で泣いた。  やっぱり、一人は寂しい。  一人暮らしを開始してまだ一日目なのに、早くも心が折れそうだ。  自らの意志で家を出たというのに、こんなにも家族が恋しくなるなんて思わなかった。  どれくらいの間こうしていたのだろう。  一人でうずくまって、嫌なことばかり考えて。  涙は止まったけれど、気持ちは全然晴れてくれない。
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