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「莉亜さん。よろしいですか」
そんなときだった。
控えめなノックの音とともに、大家さんの声が聞こえた。
人の声を聞くのがものすごく久しぶりな気がして、また泣きそうになってしまった。
「莉亜さん? いらっしゃいますか?」
私が何も反応しないでいるので、大家さんは少し心配そうな声になって続けた。
なんとなく今は上手に声が出せない気がしたので、私は無言のまま部屋のドアを開けた。
扉の向こうには、さっきの声を出したときの顔をそのままにしていたのか、心配そうな表情を浮かべた大家さんがいた。
姿を見せてもなお何も言わない私に対し、大家さんは少しだけ驚いたような反応を見せつつ、こう言った。
「歓迎会の準備ができました。リビングまで来てもらってもいいですか」
「……ちょっとだけ、待ってもらえますか」
「え? はい、それは、もちろん」
「そんな顔しないでください。ちょっとお手洗いに行くだけですよ」
「そうですか。では、僕は先に行っていますね」
そう言ってリビングのほうへ体の向きを変えようとした大家さんの服を、知らぬ間に私はつかんでいた。
「……莉亜さん?」
「……すみません。できれば、ここで待っててもらってもいいですか」
また涙目になっていた気がしたので、まっすぐに大家さんの顔が見られなかった。
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