やっちゃんのお父さん

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「暗くなったね。」 「そうだね。」 「怖いね。」 「墓地だからね。」 やっちゃんの手をギュッと握って、私は墓石を見つめる。 やっちゃんの名字が彫られたそれは、ただの石なのに、見ているだけでゾクッと怖い気持ちが沸いてくる。 暗闇、という言葉は大好きな妖怪のアニメでよく出てくるけど、ただ暗い場所のことだと思っていた。暗くなった墓地に立ってみると、暗闇は、暗いだけでなく、怖い場所なんだと実感する。 「来ないね。」 私が言うと、やっちゃんは、うーんと空を見上げる。 私はまた墓石を見つめる。 「お墓にはいないって、何かの歌で言ってたよ。」 「そっか、じゃ、ここじゃないのかな。」 やっちゃんが歩き出し、私は引っ張られるようにしてついていく。 やっちゃんのお父さんがいなくなってから、やっちゃんは不思議な子になった。大好きだったサッカーをしなくなり、あまりしゃべらず、学校にも来たり来なかったり。部屋で何してるの?と聞いたら、泣いたり、怒ったり、笑ったりしている、と言っていた。 おばちゃんは心配しているけど、それはそれで、やっちゃんなのだからいいじゃない、と私は思っている。 お隣に住んでいるから、やっちゃんが休んだ日は連絡帳とプリントを届け、授業の内容を伝え、一緒に宿題をしている。おかげで、私は前よりテストの点数が良くなった。お母さんは、やっちゃんのおかげだね、と笑っていた。 それなのにおばちゃんは、いつも私とお母さんに謝ってくる。 いつもごめんね、ありがとうね、と言って泣いてしまう時もある。 一度だけ、 「やっちゃんは、何も悪いことしてないよ。」 と言ったら、おばちゃんはもっと泣いてしまった。私はびっくりして、怖くなって、おばちゃんに謝った。おばちゃんが、私をギュッと抱きしめて、そうだね、ごめんね、とまた謝るから、私は悪いことをしたような気持ちになった。 おばちゃんが帰ったあと、今度はお母さんが私をギュッと抱きしめて、ゆうちゃんは優しいね、と言った。 「おばちゃん、泣かせちゃった。」 と言って私が泣くと、嬉しかったんだよ、大丈夫、とお母さんが言った。 その日の夜、帰ってきたお父さんが、私の部屋に入ってきて、ゆうちゃん、今日はえらかったね、と布団の中にいる私の頭を撫でた。 「おばちゃんのこと、泣かせちゃった。」 私がグスリと鼻をすすると、おばちゃんも、やっちゃんも、ゆうちゃんがいてくれてよかたって思ってるよ、大丈夫、と言われる。 泣くほどうれしいって、なかなかないよ、とお父さんが笑い、 これからも、やっちゃんと仲良くね、と言った。
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