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1年越しの約束
好きだからこそ、気持ちを伝えられない。
隼人にとって私は都合のいい軽い女なんだろう。
そう思われたくはないけど、それを否定することもしなかった。
否定したら好きだと言ってるのと同じ。
そしたらもう会えなくなるかもしれない。
だったらこのままでいい。
大学生の時にも、似たような気持ちになったことがあった。
同じサークルに大好きな先輩がいて、完全に私の片想い。
面倒見がいいと言うか、私を可愛がってくれていた。気がする。
面白い事も言えないし出来ない、人見知りだった私は運動系のサークルに入ったものの、周りはアクティブで個性的な子たちばかりで、最初はなかなか馴染めずにいた。
そんな私に唯一声をかけてくれた先輩が、木内先輩だった。
おちのない私の話を楽しそうに聞いてくれて、何を話したらいいかわからない私に色々質問して話を広げてくれた。
そんな先輩を好きになるのに時間はかからなかった。
週に3回、サークル活動のある日が私の楽しみになった。
木内先輩には彼女が絶えない。
彼女がいても、私には変わらず接してくれる。
心地よかった。話しやすくて、なんでもいいから木内先輩との話題のネタをいつも考えていた。どんな話でも楽しそうに聞いてくれて、話を広げてくれて、笑ってくれた。
周りは皆、優莉は木内先輩の妹みたいだと言った。木内先輩と言えば私、と言っても過言ではないくらいだった。
「凄くいい笑顔」
木内先輩と大学内で会った時の私の表情を見て、木内先輩と一緒にいた同じサークルの先輩が言った。
意識したこともなかったけど、木内先輩に会った時の私はものすごく分かりやすくいい笑顔になっていたらしい。
それだけ大好きだった。けどその気持ちを告げることはしなかった。
木内先輩の彼女になりたいと言う気持ちが無かったわけではない。
先輩が彼女と別れたと言う噂を聞くと、私なら先輩と楽しく過ごせるのに!としょっちゅう思っていた。
けれど、好きだからこそずっとこのままでいたかった。もし付き合って別れてしまったら、もう二度とこの心地よい関係は戻らない。優しく笑顔でどーでもいい話を聞いてくれる木内先輩のままでいてほしかった。
2年の片想いを経て、大学4年になる木内先輩の代が幹部を降り、3年になる私たちが幹部を引き継ぐ時期がきた。
会計係だった木内先輩。私が後を継いだ。
幹部交代コンパで、引き継ぐ後輩が先輩に皆の前で手紙を読むのが伝統だった。
勿論私は木内先輩に手紙を読んだ。
「一生、先輩の後輩でいさせてください」
手紙の最後はこの言葉で終わった。
そして、折り紙で折ったダリアの花を先輩の胸ポケットに挿した。
初めて木内先輩の涙を見た。
そこにいた誰もが木内先輩の涙に驚いていた。
「来年は俺が佐藤を泣かせるからな」
木内先輩が私に言った。
それから1年。
私達が幹部を降りる時期がきた。
幹部交代コンパの日。
1次会が終わった所で木内先輩が現れた。
1年前の言葉、私は覚えているけど、先輩が覚えているなんて思ってはいなかった。
そんな私に先輩が本物のダリアの花と手紙を差し出す。
「オレンジのダリアなかなか見つからなかったんだぞ」
1年前私が先輩の胸ポケットに挿した折り紙で折ったダリアの花と同じ色。
言葉も出なかった。
先輩も覚えていてくれたんだと言う喜びと驚きがぐちゃぐちゃになっていた。
そして木内先輩が卒業する時がきた。
卒業式の日、先輩は私に
「一緒に写真撮ろう」
と言ってくれた。
そして
「来年の佐藤の卒業式の時も、一緒に写真撮ろうな」
また1年越しの約束。
とは言え来年先輩は社会人。
今度こそ、期待はしちゃいけない。
私は木内先輩に、幹部交代の時に貰ったダリアの花びらを押し花にし、ラミネート加工したものを渡した。
「お守りです。私も同じものお財布に入れてます!」
なんのお守りだろう?ただの口実。
迷惑かもしれないけど、渡したかった。
木内先輩が卒業して少し経って、木内先輩から卒業旅行のお土産を渡したいと連絡があった。
大学で待ち合わせて木内先輩が私にくれたのは、卒業旅行のお土産と、お守りだった。
天然石の小さなお守り。
このお守りが、私の一生の宝物になった。
木内先輩の卒業式から1年後。
先輩は約束通り卒業式の日大学に来てくれて、「写真撮ろう」と言ってくれた。
手には卒業祝いの小さなケーキ。
他の誰のためでもなく私へのケーキだった。
そして、
「佐藤から貰ったお守り、ちゃんと財布に入れてるぞ!」
と言って私が渡したお守りを見せてくれた。
大学生の間、ずっとずっと片想いし続けた先輩。
こんなにピュアな片想いをした私だけど、その間彼氏がいなかったわけでもなくて。
木内先輩への気持ちに蓋をするため、と言うと聞こえは良くないけど、妻子持ちとは知らずにお付き合いした引っ越しやさん、その後はナンパされた借金まみれの男。どっちも木内先輩に彼女が出来たタイミングで付き合った。
そうしてでも、木内先輩との関係を壊したくなかった。
あのときの約束通り、あれから10年経った今でも私は木内先輩の後輩でいさせてもらっている。
ピュアな片想いをしていた大学時代。
この時はまだ、自分がどん底までおちるなんて思ってもいなかった。
あのとき木内先輩に気持ちを伝えていたら、もしかしたら私の未来は変わっていたのかもしれない。
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