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深まる心の闇
それから少し経って、私が夜の仕事に出勤している時に彼から連絡があった。
「終わったらちょっと会える?」
久々に日曜日に早い時間から出勤していたため、その日は夜には帰るシフトになっていた。
出勤時間が終わって駅で待つ彼に会う。
「今飲みに行ってたんだけど、財布無くしちゃってさ💦飲み代払えなくて店に迷惑かけちゃうからちょっと貸してもらえないかな。」
本当なのか?
最初から疑うのも良くないのでお金を渡した。
「お財布に身分証とか保険証も入ってたんじゃない?警察には行った?」
「あ、ああ。まだ届いてなかった」
なんとなく、嘘をつかれているような気がしてならなかった。
その翌週
お姉さん夫婦は外出中だということもあり、久々に彼の家に行った。
やっぱりあった。彼のお財布。
「あれ?お財布見つかったの?」
見つかったなんて聞いてないし、お金も返してもらってない。
「え?あ、ああ。見つかった見つかった」
本当に見つかっただけかもしれない。
けど、彼の返答ぶりを見る限りでは、最初から無くなった訳ではなかったのだとしか思えなかった。
一度疑うともうだめだった。
全てが嘘に聞こえた。
そしてあの日がきた。
あまり会おうともしないし、連絡も激減した私に腹が立っていた彼は、酔っぱらって私が働くお店にやってきた。
お客として来られた以上は逃げられない。
会うなり
「なんなのお前。俺はお前と仲良しごっこしてる暇なんてねぇんだよ!俺には小学3年の子供がいんの。その養育費払ってんだよ!お前に使う金なんてねぇんだよ!」
はじめて知った。
バツイチだったんだ。子供いたんだ。
確かに彼とお出かけなんてしたことが無かった。会うのはいつも彼か私の家。
て言うか、私と同い年なのに小3の子供って、いくつの時の子供だよ。
酔っぱらってヒートアップした彼は壁を殴り蹴りだす。
お店に迷惑かけちゃう。
「別のところで話そ」
一人で怒り狂う彼を無理やり追い出し、出勤時間が終わった私も外に出た。
できるだけ誰にも迷惑がかからないような場所を探して歩き出す私に
「逃げんのかよ!こら!」
罵声を浴びせながら追いかけてくる。
どんどんどんどん一人でヒートアップする彼。
「ふざけんじゃねぇよ!待てよぶん殴ってやるから!」
もうなにを言った所で通じない。
止まれば何をされるかわからない。
怖かった。
逃げるつもりは無かったけど、逃げるしかなかった。
逃げながら彼の姉に電話する。
お金問題以来久々の電話だった。
「酔っぱらって暴れてるから、今すぐ彼を迎えに来てほしい」
泣きながら言った。
怖かっただけじゃない。
一気に悲しみが襲ってきた。
彼にとって私は何だったんだろう。
そのまま路上にへたりこんだ。
そして止まらない涙が落ち着くのを待った。
中絶したときを思えば全然辛い訳じゃない。はずなのに、涙は止まらなかった。
彼は諦めたのか、姉が迎えに来たのか、もう追ってきてはいなかった。
そのまましばらくその場から動けず涙を流す私に、ヤバイやつだというような視線を投げ掛けながら通りすぎていく人たち。
遅い時間だったけど、夜の町だから外れた場所でも通行人はまぁまぁいた。
夜中に女の子が一人で泣きながら路上に座ってるのに、だれも心配するどころかヤバイやつ扱い。
まぁそーだよね。
そこで声かけてくるやつはまたヤバイやつなんだよきっと。
私の心はすさんだ。
もう何もかもどーでもよくなった。
私は幸せになんかなれないんだ。
笑顔のファミリーを見るのが辛かった。
あの時産んでいたら、今の私はどうなっていたんだろう。
翌日
辛くても昼職はやすまない。
冷静さを取り戻した私は昼休みに彼にLINEを送った。
"貸したお金はもういらない。だからもう2度と私の前に現れないで。さよなら"
前にも言ったなこんなセリフ。
そして今までと変わらない日常。
昼間は普通に会社員。仕事終わって夜は風俗嬢。
明け方仕事帰りに散歩。
緑が沢山の公園。やっぱりここは落ち着く。
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