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No.1との出会い
キャッチ中のホストとの何気ない一瞬の会話は、ほぼ毎朝の散歩の楽しみになっていた。
彼らはもう私を誘ったりはしない。
だから余計に、すれ違い様の会話が嬉しかった。
ある日曜日の明け方
その日はいつも見る顔の中にはじめましての顔があった。
はじめましての顔が私を見かけるなり近づいてくる。
「何処に行くんですか?」
「お散歩」
「へぇ!仕事帰り?」
「うん。」
「お!今日もさんぽだ!笑」
他の顔馴染みのホストたちが私に気づいていつもの様に声をかけてくる。
「え、お前ら知り合い?」
「いつも散歩してる子!笑」
「ふーん。ねぇ、携帯番号の下八桁だけでいいから教えて!笑」
はじめましての彼の斬新な聞き出し方に思わず反応してしまう。
「え 笑 なにそれ殆どじゃん 笑」
「んーじゃぁ下四桁でいい!また会えたら残り教えてもらう!」
「いいよ 笑」
魔が差したのか、自暴自棄だったからなのか、自分でもよくわからない。
また会えるかどうかもわからない。
でもその数日後も彼はそこにいて、約束通り番号を教えることになった。
そしてそのままお店に。
この男との出会いが、私の人生を更に歪めることになるなんて、この時は思ってもいなかった。
はじめてのホストクラブは、思っていたより落ち着いていてこじんまりとしていた。
ホストクラブにも色々あるんだな。
いつも外で顔を合わせていたホストたちが、お店に来た私を見て驚く。
自分でも驚いていた。
なんでホストクラブに来ちゃったのか。
ただただ何でもかんでも0が多いイメージしかない。
「はじめてだから、フリーで入る?それとも俺指名にする?」
「いろんな人に同じ話するのだるいし、指名でいいよ」
私のメンタルが弱っていたとしても、今まで心動かなかった私をここまで連れてきた訳だから、彼に何か惹かれるものがあったのかもしれない。
はじめてのホストクラブは、思っていたより高額な請求をされるわけでもなく、落ち着いたバーで気分よくお酒を飲んだような感覚だった。
彼が私をお店に誘う事は殆ど無かった。
お散歩中にたまに遭遇した時に、気が向いたらお店に行く感じだった。
お会計は毎回4桁で収まっていた。
思っていたより良心的な金額に驚く私に
「沢山お金使ってくれるのは嬉しいけど、それよりも安く何回も会える方が嬉しい」
流石ホスト。これがホストか。
彼はたまにしかキャッチに出ていない。
あの日はじめましてだった時は新しく入った人なのかと思ったけど、そうじゃなかった。
だいぶ後から知ったけど、彼はお客さんが被らないように、毎日一組だけお客さんを呼んでいる様だった。
だから、日替わりで彼にはお客さんが絶えない。
彼はこの店でNo.1を争うホストだった。
彼は私をお店には誘わないけど、連絡はまめだった。
さみしがりやでメンタル弱っていた私にとっては、誰かが自分の事を一瞬でも思い出してくれている事が嬉しかった。
でも相手はホスト。
これは仕事でやってるわけで、勘違いしちゃいけない。
それでもいい。仕事でも、私を思い出してくれる人がいるのは嬉しかった。
そうして数ヶ月が経った頃
相変わらず私がお店に行くのはお散歩中にたまたま遭遇したときだけ。
しばらく遭遇することもなく、LINEでのやりとりだけは続いていた。
"俺、優莉ちゃんの彼氏になりたい"
いつもの様にくる連絡に突然の話。
でもピュアな私はもういない。
"遠慮しとく"
好きか嫌いかと言われれば好きだったし、正直嬉しかった。けど相手はホスト。これが仕事のためだってことくらいわかる。色恋営業ってやつだ。
私だって夜の仕事何年もやってる。風俗で色恋営業なんてやってないけど、色恋営業の存在は知っていた。
彼もその手を使うのか。と残念な気持ちにはなったけど、仕方ない。それが仕事だ。
彼の申し出を断っても、彼は今までと変わらなかった。
連絡もまめだし、たまに遭遇したときにお店に行き、お会計も4桁で抑えてくれた。
安心しきった頃に次の手を打つ。
それが彼のやり方だったのか。
様子をうかがっていたのか。
お散歩中いつもの場所で、久々に遭遇してその日もお店に行った。
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