恋愛ゲーム

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恋愛ゲーム

いつもの様に楽しく会話して いつもの様にほどほどに飲んで いつもの様にお会計は4桁 来るのはだいたい昼職がない日 明け方来て閉店までいるのが流れだった。 その日も明けて日曜。昼職は休み。 いつもの様に外まで送ってくれる彼。 お店を出て階段までのほんの短い距離だけど外から死角になる場所がある。 突然腕を捕まれてその死角の壁に押し付けられる。 これが壁ドンか。 「俺の事好きになった?」 「え?」 「じゃぁ俺の事きらい?」 「そうじゃないけど.....」 「そうじゃないけど、なに?」 前にもこんなやりとりあったな。 思い出したくもない過去。思い出したくもない男。 いつもの優しい紳士的な彼とは違う、ちょっと怒っている様な表情に口調。 さっきまでいつもと変わらなかったはずなのに。 突然の事に頭がついていけない。 言葉も出てこない。 「もう一回言うね。優莉ちゃんの彼氏になりたい。」 顔が近い。 こんなに至近距離で言われて断れる人はいるのだろうか。 こんなの、100%の自信がなきゃ出来ないはず。 「いい?」 「...うん」 結局私は押しに弱い。 またこれだ。 また強引に付き合うパターン。 でも今回、前と違うのは私の気持ちが完全に割りきれているということ。 私はお客さんとして、色恋営業されてるだけだとわかっている。 私が彼の申し出を受け入れると、近かった彼の顔が更に近づいてきた。 深く激しいキスをくれる。 あぁ、いつもここでこんなことしてるのか。 私は彼の何人もいる彼女のうちの1人でしかない。 こんなことしなくたって、私に色恋営業なんかしてもしなくても何も変わらないのに。 そんなことを考えられる位の余裕が私にはあった。 「今日が記念日だね。優莉。」 彼は嬉しそうに言う。 これが演技なら、役者にでもなった方がいいんじゃないだろうか。 私が彼の彼女になってからも、特別に変わったことはなかった。 お店に行く頻度も変わらない。使う額も変わらない。 変わったことと言えば、連絡の内容が恋人っぽくなった位。 あと、たまに彼が私の家に来るようになった。 彼は私の夜の仕事を詳しく聞いたりはしなかった。 私も自分から言ったりはしなかった。 恋愛ゲーム。 彼の彼女になってからそう思うことにした。 どっちが本当におちるか、彼を本気にさせる事が出来るか。 そう思う事で精神状態を保っていた。 自分だけが手のひらで転がされるのはごめんだ。 どうせ彼氏もいないし、好きな人もいないし、寂しいし、気持ちは無くても構ってくれるのなら、それでもいい。 彼が私をお客さんとして色恋営業を仕掛けて来た以上、私も彼を都合のいい男として利用させてもらう。 彼だって人間。そんなつもりは無くても本気になる可能性だってある。そうさせられたら私の勝ち。 あんなにピュアだった私が、ここまで変わってしまったのか。 自分でも悲しくなる。 恋愛ゲームがはじまって数ヶ月が過ぎた。 私達の関係は相変わらず。 寂しかった私の心はだいぶ癒えていた。 毎日連絡がとれて、寂しくなればお店に行けば会える。 店休日にはうちにも来てくれる。 一緒にご飯にも行った。 お出かけすればお会計は全て彼が出してくれた。 今までのどの彼氏よりも、普通に近いお付き合いが出来た。 彼の真意はわからない。 けど、楽しかった。 そんなある日 「ホスト辞めようと思ってる。」 彼から言われた。 「店には年末までで辞めたいって話してるんだけど、なかなかわかってもらえない。」 「なんで急に?」 No.1が辞めるなんて、そう簡単には店も承諾できないだろう。 「優莉とのこれからを考えてさ。ずっとホストやってるわけにもいかないでしょ?まともな昼間の仕事見つける」 私のため? 本当に? 「俺がホスト辞めても、一緒にいてくれる?」 「うん」 断る理由なんてなかった。 でもまだわからない。 辞めたら音信不通になるかもしれない。 辞めるまでの売り上げアップ狙いかもしれない。 そもそも辞めるなんて話自体嘘かもしれない。 自分が傷つかないための予防線を張り巡らした。 彼を信じるのは、本当に辞めてから。
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