最高のホワイトデー

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最高のホワイトデー

ピアノ少年越しに視界に入った隼人は既に私に気づいているのか、探すそぶりもなくこっちに歩いてくる。 あの人が私の待ち合わせ相手。 なんだか嬉しくなる。 他の人にも隼人が私と同じように格好良く見えているのかな? それとも恋愛フィルターがかかっているだけ? なんだろう。オーラが違う。 知り合いじゃなくても、こんな人が歩いていたら私の視線は隼人に奪われていたと思う。 あんなにピアノの音色に引き込まれていたのに、隼人が視界に入った瞬間に足は隼人へと向かいだす。 「ごめんね」 「うぅん」 遅れた事への謝罪に笑顔を返す。 全然平気。 ピアノも聞けたし。 それに、昔の彼氏は何時間も待ったあげく結局来ない事もあった。 だから数分遅れる位全然平気。 「はいこれ。」 隼人が私に差し出したのはブランドの紙袋。 「え?なに?」 「ホワイトデー。お返し。」 「え!いいの!?・・・ありがとう」 「貰っても持って帰るのに困るか 笑」 「んーん!大丈夫!」 「旦那さんに それどうしたの?って聞かれないの?」 「気づかないよ 笑 旦那さんにはホワイトデースルーされたし 笑」 「まじか 笑」 そう。 涼雅君にはホワイトデーをスルーされた。 きっと忘れていたんだと思う。 ホワイトデーがいつかも知らないんだと思う。 バレンタインのチョコケーキを隼人に渡してから1ヶ月の間、実はホワイトデーを楽しみにしていた。 もしかしたらって思って。 心の奥底ではあるはずないって思ってはいたけど。 けど、もしかしたらって思うだけでも、ホワイトデーまでは幸せな気持ちで過ごせた。 楽しみがあるだけで、毎日がキラキラしていた。 ホワイトデーに何もなくても、1ヶ月間幸せな気持ちで過ごせたんだからいいじゃんって思ってた。 結局、ホワイトデーの日はいつも通り "おはよ" って言って終わった。 男の人ってそんなもん。ホワイトデーがいつなのかなんて、スーパーとかデパートとかに行かなきゃ気づけないんだよ。 私の心は全然傷ついていなかった。 だって私は人妻。人妻にホワイトデーにお返ししないよ普通。 わかっていたから。 バレンタインに受け取ってくれただけでも十分優しいよ。 でもまさか涼雅君にスルーされるとは思わなかった。 去年はケーキ買って来てくれたのに。 結婚記念日も、ホワイトデーも、何もかもスルーされる。 来月の私のお誕生日までスルーされたらどーしよ。笑 でも隼人はスルーしなかった。 私の気持ちをなかったことにはしなかった。 もう十分。 涼雅君に貰うホワイトデーより、隼人がくれたホワイトデーの方が私は嬉しい。 「袋は全然関係ないから!笑 家にあったやつ使っただけ 笑」 「うん 笑 ありがと 笑」 ブランドの袋の中には、花柄の包装紙が見えた。 私が渡したのはマフィンサイズのケーキなのに、こんなちゃんとしたお返し... 申し訳なさと同時に、私の為に選んでくれたのかな?という喜びが込み上げる。 やばい。 今日、今、私幸せすぎる。 ホワイトデーでこんなに嬉しい気持ちになるの人生ではじめて。 ピアノの音色をBGMに、私たちは歩き始めた。 本当はもう少し聞いていたかったけど... 隼人は興味ないだろうし。 あそこで立ち止まってピアノ少年の演奏を見ていたのは女の人ばっかりだったし、隼人には居心地悪いかなと思ってなにも言わずに歩き出した。 「で、どこ行く?」 「あ!そうそう!調べてたの!」 幸せでぼんやりしていた私はようやく我に返った。
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