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優しいけど嬉しくはない言葉
入ったのは昼間からお酒が飲める居酒屋さん。
調べたお店を言うと、隼人の知っているお店だった。
そしてお店に着いて思い出した。
私もこの居酒屋さん来たことある。
どおりで店名が聞き覚えあると思った。
私のスナック全盛期にお客さんと一緒に来たのがここだ。
「今カウンターしか空いてないけど、カウンターでも大丈夫?」
フレンドリーなのか、態度がでかいのか、はじめましての店員さんにタメ語で言われてカウンターに座った。
壁側に座った隼人は、椅子の背もたれではなく壁に背中を預けてこちらを向いて座っている。
なんだか嬉しい。
テーブルで向かい合って座るより、カウンターで隣合わせで座っている方が好き。
近いし、ずっと顔を見て話す必要はないし、だからなのか、普段は聞きにくいことも聞ける。普段は話しにくいことも話せる。
お酒が入れば尚更。
「何たのむ?」
メニューを私に見せながら聞いてくる。
「私優柔不断なの 笑」
「じゃぁ、とりあえずビールと刺身盛り合わせと、チーズ揚げ?」
「相変わらずチーズ好きだよね 笑」
「あ、チーズ好きなのバレてるんだったね 笑
あれはさすがにやり過ぎたわ 笑」
隼人のチーズ好きは、前回子連れで一緒にファミレスに行った時に知った。
隼人はチーズ増しのドリアとチーズ増しのピザを食べていた。
こんな会話が出来ることも幸せ。
「野菜系は?何かたのむ?」
「たのもっかな」
「フライドポテト?笑
ゴボウ揚げの方が好きそうだな 笑」
優柔不断な私にいくつか選択肢を提示してくれる。
「ゴボウ揚げ食べれる?」
「俺は食わない 笑」
野菜嫌いの隼人も一緒に食べられるフライドポテトも注文して、まるで昔からよく飲みに行く友達のように、他愛ない話で盛り上がった。
ビールから始まり、ハイボールやサワーを経て日本酒を飲み終わる頃には私も隼人もいい感じに酔いがまわっていた。
「何で会わなくなったんだっけ?」
他愛ない話からだんだんプライベートな話しになり、隼人が7年前の私達の話を持ち出した。
「覚えてないの?笑」
本当はちょっとショック。
覚えてないんだ。
私が"好きになりそう"って言った事も。
でも表には出さない。
重い女にはなってはいけない。
「覚えてない 笑
会わなくなる理由がなくない?」
「覚えてないならいーよ 笑」
「良くない!笑
ねぇ、何でか教えて」
「やだ!笑」
「なんで?俺のせい!?」
「隼人のせいではない。」
「じゃぁなんで?妊娠した?」
「誰の子だよ 笑
そーじゃない!笑」
あの時妊娠していたら、隼人はどうした?
「じゃぁなんで?」
「言いたくない!」
「なんでだよ」
「気まずくなりたくない」
覚えてないなら、わざわざ知らせる必要はない。
「気まずくならないでしょ?」
「わかんないじゃん」
「気まずくならないから教えて」
「まだだめ。笑
もっと飲まなきゃ言えない 笑」
「はぁ?笑
お前俺どんだけ飲んでると思ってんだよ 笑
酒のペースは合わせられなくても、話のペースは合わせられる位飲めよ 笑」
「はいはい飲みます 笑」
喧嘩じゃない。
私には心地いいテンポの会話。
きっと隼人にとっても。
「旦那さんとは?最近どうなの?」
「どうって?」
「うまくやってんの?」
「普通だよ」
「じゃぁ最近ヤッた?」
「ヤッてない 笑」
「月いち位?」
「月いちもない 笑」
「まじ?笑
月いちもなかったらタイミング分からなくならない?」
「なる 笑」
「そーやってレスになっていくんだよな 笑」
「そーなんだよ 笑」
「...お前寂しいんだな。俺と一緒にいるときだけは女になれるのかなーって。俺しかいないんだろうなーって。思った。じゃなきゃバレンタインとか渡さないでしょ。」
なぁんだ。
全部わかってたんだ。
分かってて、相手してくれてたんだ。
涙がこぼれそうになるのをこらえるのに必死で言葉が出ない。
その通りすぎてなにも言えない。
「俺はお前の家庭を壊す気はないし、お前が俺とこうやって会うことで息抜きになって、家庭が円満になるなら、それでいいと思うし。」
都合のいい男として利用してくれていいって言ってる様なもんだよ?
優しい言葉だけど、嬉しくはない。
だってそれは、私の事を好きじゃないから言える言葉だよね。
好きな女にそんなこと....言わないよね。
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