俺の嫁①

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俺の嫁①

 とりあえずリビングへ通すと朱音君は俺の隣りにちょこんと座った。  いやいやいやいや? 他にも座るとこあるでしょうに??  俺はそこそこいい会社でバリバリ働いてるし、趣味なんかもないからこれといってお金を使う用事もなくて、一人暮らしにしては広い部屋に住んでいる。  だからわざわざ隣りにひっついて座る事なんてないんだ。  朱音君を見てもにっこりと微笑むだけで離れようとはしない。 「――あの、さ。分かってると思うけど俺は男で30歳。キミから見たら立派なおじさんだよ? 嫁とか……冗談だよね?」  俺の言葉にさっきまで幸せそうに笑っていたのに、一瞬で表情が曇ってしまった。  きゅっと噛みしめられた下唇に、瞳にはじわりと涙まで浮かんでいる。 「あーいや、えーと??」 「――力さんはおじさんじゃありません……。……僕の事嫌い、ですか? お嫁さんにはしたくない、ですか……?」 「うーん……」  バリバリと後ろ頭を乱暴に掻く。  はっきり言ってこういうのには慣れていない。  仕事の話だったら黙れっていうくらいぽんぽん言葉が出てくるのに、こと恋愛事となるとうまく言葉が出てこない。  この子を傷つけたいわけじゃない。  ただ、常識としておかしいのだ。  俺は男でこの子も男。俺は30歳でこの子は18歳。  そんな二人が結婚とか……ないだろう? そもそも法律が赦していない。  百歩譲ってお互い好きあっていたら、別の手段をとってでも結婚と似たような事はできるかもしれない。  だけど、俺はこの子の事を何も知らない。  ただじいさん同士が仲がよくてその孫同士という関係だ。  会った事もなかった。  初めて会った相手にいきなり嫁だと言われても、たとえこの子が女の子だったとしてもそう簡単に受け入れられるものではない。 「答えを出すのは僕の事を知ってからにしていただけませんか? 僕の事を知った上でお嫁さんにできないとおっしゃるのなら、僕は……諦めます、から。だから……少しの間だけでも――」  朱音君からの提案だった。必死にそう言うので仕事のようにバッサリと切ってしまう事はできなかった。  だから条件付きで受け入れる事にした。 「分かった。じゃあ……」  ぴっと3本の指を立てて見せる。 「3か月だ。3か月で無理だと思ったら嫁だのなんだのって話はなしだ。勿論これは俺だけじゃなく朱音君が無理って思ってもこの話はなしだから。変に意地になったりせずによく考えるんだよ? 俺にとっても朱音君にとっても大事な話なんだから」 「――――はい」  自分の服の袖で乱暴に涙を拭うと、朱音君は花のように笑った。  どきりと心臓が跳ねるが、きっと気のせいだ。  頬に熱が集まるがそれも気のせいって事にした。
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