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 はっきり言って朱音君はすごかった。  何がすごいかって? 何もかもだ。料理洗濯掃除、何をとっても完璧だった。  俺の方は仕事が相変わらず忙しいのだが不思議な事に前ほど疲れが翌日に持ち越される事もなく、休みにゾンビのような最悪な状態で過ごす事もなかった。  黙っていてもおいしいご飯は出てくるし、綺麗な部屋、柔軟剤のいい匂いのする清潔な衣類やシーツ。  なんなら実家にいた頃より快適だった。  今もなぜか風呂場で俺の背中を洗ってくれている。  気持ちいいし他人に身体を触られて男としての欲望が――――!  ――――って違うだろ?!  男同士だから別に裸のひとつやふたつ、みっつやよっつどうって事はない。  背中を洗われるのだって別に局部を洗われているわけでなし、どうって事はないはずだ。  なのにこの見た目美少女の朱音君に、裸を見られて背中を洗われているかと思うと身体の一部分が兆し始めてしまった。  3.14159265359……。  円周率を脳内で唱えてみても一向に治まる気配がない。いくら彼女いない歴=年齢の俺でも欲求不満すぎるだろ!  相手が嫁だと言ってはいても俺にそんな気はないんだ。なのに手を出してどうする! 一時の気の迷いでそんな無責任な事をしてこの子を悲しませたくはない。  ――そ、そうだ! 『お嫁()()』という事にしよう。本当に嫁に来たわけではなく、自分はお嫁さまをしばらくの間預かっているだけだ。そう思えば間違って手なんか出さないはずだ。  身体の熱もなんとか治まり、まずはひと安心。こんなの見られたら言い訳できないしな。  でも、だ。 「朱音君、無理はしなくていいんだからな? キミも勉強大変だろう? 俺はキミが家事ができなくてもその事で嫁としての判断を下すつもりはないから安心して? だからおじさんの背中なんて無理に洗う必要なんてないんだよ?」  ちょっと何様目線だ? と自分でも思うが朱音君の事を知るのに家事ができるとかできないとかで判断するつもりはない事は確かだから、無理して欲しくなかった。それに今日は無事に治まったけど、次はどうなるか自分でも自信がない。 「僕無理なんてしてないです。家にいた時の方が朱理(あかり)の世話もあったりで忙しかったくらいですし」 「朱理……ちゃん?」 「妹なんです。まだ6歳で我儘放題なんですがそんなところもかわいいんです」  そう言ってふふふと笑う。  ――ああ、そうか。そういう事なのか。  俺は分かってしまった。  大事な妹のために俺のところにキミは来たという事か。  あのじいさんたちの事だ。朱理ちゃんがもう少し大きくなった時、俺がまだ独身だったら死ぬ前にって泣き落としでもなんでもして、俺の嫁に朱理ちゃんをごり押ししてくるだろう。  40過ぎの男にティーンエイジャーの朱理ちゃん。  普通に考えたらない話だ。だけどじいさんたちなら言い出しかねない。  勿論俺は受け入れるつもりはないが、そんな事を今言ってみたところで朱音君は納得しないだろう。先の事なんて誰にも分からないのだから今はいくら口で大丈夫だと言ってみたところで、寂しさに負けて朱理ちゃんと無理にでも結婚しようとするかもしれない。なんといってもじいさんたちが味方なら無理な話ではない。  そうか……そういう事か。  さて……どうしたものか――。  背中を洗い終わりシャワーで流されながら、俺は心にもやもやしたものが生まれるのを感じていた。
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