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シロクロ
僕は生まれつき目が見えません。
「目を閉じたとき瞼の裏に映るモヤみたいなものは見えないの?」と訊かれたことがあります。
なにそれ、こわ。
「双眼鏡で太陽見てもお前は大丈夫だな」と言われたことがあります。
アホか?くそ痛えわ。
太陽見えねえ。
「点字ブロックってホントにいるの?」と尋ねられたことがあります。
マジで超いる。あれがないと3回は死んでた。
「赤色とかって言われてもわからないのか」
その言葉は何度も何度も聞いた。
色がわからない。
赤色、きっと見るだけで興奮するような情熱的な色なんだろうな。
青色、きっと目に入るだけで涼しくなる魔法みたいな色なんだろうな。
色がわからない。
僕は盲目だが、あえて見えているものを色で形容するのだとしたら。
それは真っ黒。
見ているだけで心が暗くなってしまう、きっとそんな色。
でもたまに清々しくて心地よい色、白色みたいになる。
美術の先生が言っていた。
絵の具は色を足していくと黒色になるらしい。
でも、光は色を足していくと白色になるらしい。
僕の心はいつも絵の具でぐちゃぐちゃだけど、たまに光が差し込む。
お母さんだ。
お父さんだ。
友達だ。
先生だ。
隣の家のおばちゃんだ。
駅で話しかけてくれる名前も知らない人だ。
いろんな色の光が混ざり合って、その時僕は白くなる。
真っ暗闇の世界が白くなって、やがて輝きだす。
彼らの見える景色と僕の見える景色は多分違うのだろう。
でもきっと、おんなじものを見ている。そんな気がする。
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