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「だから待てって。ちゃんと謝っているだろう、悪かったよ」
背後からの声にソラは天井を仰いだ。
階段を二段飛ばしに駆け上がり、息せき切ってハネが追いかけてくる。
閉宴と同時にこっそり帰ろうとしていたのに、見つかってしまったようだ。
「けど正直あれに関しては、先に教えてくれなかったそっちにも落ち度があったと思うぜ? マイクの集音機能があんなに進歩しているなんてさ。なにせ俺は」
「八十年分遅れているんだから」
「そう」
「ええ、うっかりした。けどね私だって、この八十年で何が変わったかなんていちいち覚えていないの。どれも私達にはとっくに常識になっているんだから。八十年がどれくらい長いか、パパちゃんと分かっている?」
視線を感じて振り返る。
ハネに振りほどかれたらしい親戚らが、苦笑を浮かべてこっちを見ていた。とりなしてくれよ、なんて目で訴えられている気がする。
「とにかく、もう少し話でもしていったら。あなたのために開かれた会なんだから。皆、パパと話すのをどれだけ楽しみにしていたか」
「期待外れでがっかりさせるだけさ。それに、ソラが帰ろうとするから」
「ええ先に帰る。パパだけ後から来て」
「帰れないよ、ひとりじゃ」
「誰かに送ってもらえば」
「なんだよ。まだ怒っているのか」
「怒っていない!」
つい声が荒くなる。イライラしていることは分かっていた。おそらくその原因が、目の前の父親にあることも。
(だから先に帰りたかったのに)
ハネは幼子のように口を曲げ、ちらちらとこちらの様子をうかがっている。がしがしかき乱すせいで、せっかくセットした髪が台無しだ。
(あんなに準備したのに、何度も、なんでも!)
歯がゆい。悔しい。納得できない。
本当の父親、ソラの記憶にある八十年前のシラクモ=ハネは、もっと頼りがいのある大人だったはずだ。周囲に苦笑されたり、憐みを向けられるような人間じゃなかった。
たとえ幼い時分の思い込みとひいき目が、少しばかり入っていたとしてもだ。
(もっとしゃんとして! 最高の父だって誇らせてよ!)
今にもそう怒鳴りつけようとした、その時だった。
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