私たちのユートピア

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 ようやく迎えた休日。忙しい生活に満身創痍の私は、重い体を気力で持ち上げ、のっそりとアパートの階段を上った。手にしたレジ袋がカサカサと音をたてた。帰ってこのサラダを食べたら眠ろう。カバンの底をさらって鍵を取り出し、シリンダーをゆっくり回してドアを開けた。 その瞬間、何かがすごい勢いで背中にぶつかり、私は玄関の三和土(たたき)に崩れ落ちた。手に持っていた食材も、袋から飛び出しばらばらと散らばった。  (いった)ーい、何なの一体? 両手をついて身体を起こすと、目の前にスニーカーを履いた2本の足が、視線を上げると見知らぬ青年が玄関ドアを閉めているところだった。  ひっ、 人は本当に驚いた時、息をのむものだと知った。青年は屈み込んで私の顔を見ると、自分の口元に人差し指をあて、しい、と言った。 「助けて下さい、追われてるんです」 「……だれ、に?」 ようやく口に出すと、 「警察です」 警察? この人逃亡犯? 私は今度こそ叫ぼうとしたが、青年は片手で私の頭を抱えて、もう一方の手で口をふさいだ。 「静かに。騒がなければ危害は加えません。騒いだら……どうなるかわかりません、僕にも」  こわい。固まって耳を澄ますと、ドアの外の廊下をバタバタと走る音が聞こえた。この青年の追手なのか。音が収まり静かになると、青年は私の口から手を離し、ドアの鍵をかけた。  カチャリという音が静寂の中に響いて、私は外界から隔絶された。
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