最初の恋人 最後の恋人

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「ありがとう。ありがとうね勇希」  俺は福祉の仕事をしてきて、誰よりもこの辛さを知っていたつもりだった。でもそれは、血の繋がらない上辺だけの関係であって、生きることの辛さや人を看取る大切さを今この瞬間、嫌というほど思い知らされた。  母さんは痛みに耐えながら言った。 「最後の、鎮痛剤を、お願いします」  部屋の隅で様子を見守っていた医師にそう告げると、母さんは俺を見てニッコリ笑った。  その笑顔は、今までで一番の飛び切りな笑顔に見えた。  俺は震える手で母さんの涙を拭う。 「勇希、ありがとね」 「大好きだよ、母さん」  俺と母さんの最後の会話だった。  ポツポツと降りだした雨はやがて大粒に変わり、チャペルの屋根に勢い良く落ちてくる。牧師が何やら言っているが雨音のせいで何も聞こえない。こんな晴れの舞台だって言うのに、この雨はどこまで俺達の邪魔をしたら気が済むのだろう。  俺と友里は予定通り結婚式を挙げることが出来た。でもそこには母さんの姿はない。最前列に座る母さんの写真は、静かに俺達を見守っていてくれた。  内陣に立って友里と向き合う場面になると母さんの写真が目に入った。俺はそれから目が離せないでいると、友里が母さんの写真に向き直る。俺の腕を引き寄せて一緒に一礼をした。俺達よりも下段にいる母さんに敬意を表してくれたのだ。 
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