トンガリ帽子の売店係

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トンガリ帽子の売店係

 ガーラヘル王国の首都キングスコート。  風情漂う街の中心には一風変わった建物が立つ。  玉ねぎ型の屋根や派手な色合いの外壁はセンスが悪く、市民達が評するには、“問題児達を集めた悪趣味極まりない隔離施設”――なのだそうで、周囲の地価は下りに下がる。  けどまぁ、“問題児”というのはあくまでも一般市民の見方だ。  国の上層部からすれば、彼等は国家財産に匹敵するほどの価値がある。  ここは王国が誇る魔法使い達の学び舎、“ガーラヘル王立魔法学校”。    周囲の国々との戦争が絶えないこの国において、魔法使いは大きな戦力となるため、彼等の育成は大変意義あることとされている。  そんな魔法学校の構内に、一際賑わいを見せる場所がある。  食堂に併設された売店だ。  この学校には比較的裕福な家に生まれた者が多いというのに、いったい何が彼等を駆り立てているのか。  売られている惣菜パンは全種類例外なくマズいし、筆記用具類は校章入りのださい品物ばかり、学校新聞なんか低俗なゴシップだらけで読めたもんじゃない。  そんなことは皆知っている。それでも来ずにいられないのは、金曜日に限って喉から手が出るくらいに欲しい物が売られているからだ。  売店の中を注意深く観察してみよう。  本日売店の売り子として立つ少女は一年スライム組ステラ・マクスウェル。  十歳にも満たないような幼い外見のこの少女は大きなトンガリ帽子を被る。そのため、淡く色付く頬が殊更強調され、まるで小動物のようだ。  だからといって、彼女をなめてはいけない。  ステラ・マクスウェルは優れたクリエイターなのだ。  作成するマジックアイテムはこの学校に通う生徒達にとって、垂涎のブツ。授業で使用したなら評価が上がり、就職試験で使用したなら高給取りになれるのだとか。  なもんで、客達の目は恐ろしい程に血走る。 「ステラちゃん! ポーションを1ダースくれ!」 「ピリピリの水を1瓶でいいから売ってくれないか!?」 「授業で必要なのよ! 数が足りないなら、私に優先して売ってちょうだい!」  みっともなく懇願する様はまるでアンデッド系のモンスターのようで、とても知能ある人間だとは思えない。  対するステラはというと、彼女の相棒である小さなドラゴンと呑気に会話している。 「アジさん。ポーション12個残ってますか?」 「ポーションはさっき儂が1瓶飲んだから11瓶しかないぞ」 「むぅ……。ポーションはジュースではないと何度言えば……」 「儂は老体だからの。ポーションを1日に何度か飲まないと、身体がキツいのだ」 「年寄り扱いすると怒るくせに、よく言いますねっ」  彼等の会話に痺れを切らしたのか、上級生の一人が話に割り込んだ。 「もうすぐ昼休みが終わるから早く!」 「はぁい。わわっ……」  カウンターの中からガラスの割れる音が聞こえた。  どうやらステラが手を滑らせ、ポーションを落っことしてしまったらしい。彼女の失態に対し、アチラコチラから嘆きの声が上がる。  そんな売店の様子を、男が一人眺めていた。  吊り上がり気味のまなじりを更に尖らせているところから察するに、ステラをあまりよく思っていなそうだ。
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