勇気を出して、何気なく

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勇気を出して、何気なく

「それじゃあ、本題に入ってもいいかな?」  マルは小さな目で彼女に問いかけた。  彼女は眼鏡のつるを手で押し上げ、桜色のクリアファイルを差し出した。 「あの……、これ、解いてもらえませんか? 私、ミステリーが大好きで、自分でも謎を、作ってみたんです」  一言一言をゆっくりと、考えながら発言する。彼女の話し方は相手に伝わるか、よく考えて話すそれだ。 「なるほど、分かりました。それでは、拝見しますね」  マルは少し口の端をつり上げて、中身を取り出した。出てきたのは一枚のルーズリーフ。 賽は投げられました。 安心してください。問題は一つだけですよ。 ある庭に素敵な花が咲いていました。 ぬをんげれるな、うてすょえなるきさめいはひに。 ふなてぢこうわはつぎえいはひに。 私はそれを貴方に贈ります。  ルーズリーフに並ぶ整った文字が、彼女をよく表している。  少し気になることはあるが、この謎は解けそうだ。  僕の持っている知識と少しのひらめきで。僕はノートを出してシャーペンを握った。  マルを肘で突いて視線を送る。 「マル、多分、これ解ける」 「本当か、良かった! 頼んだぞ、ワトソン君」 「だから、ワトソンはホームズの右腕。ポアロに関係ないし」  マルは口笛を吹いて、明後日の方向を向いた。その視線が彼女とぶつかった。 「あ。どうして、ポアロなのに、一緒に解かないのかな、って思ってるでしょ?」 「……はい。役と反対なのかなと」  彼女は問いかけに、一拍空けて答えた。視線を落とし、机の下で手をぎゅっと握りしめる。  知らない男子と話すのは不安なんだろう。 どうしてここに来てくれたのだろうか。謎解きをしてほしいなら、友達に頼めばいい。 「実はぼくね……、謎解きは苦手なんだ。だから、そーゆーのは、ケイに任せてるんだー!」  マルは持参していた和菓子を彼女に勧めた。自身はお饅頭に手を伸ばし、「うちのワトソン君は優秀なんだよー」とか言っている。  マルは場を和ますことに長けている。その丸いフォルムも優しい口調も、僕には無いものだ。
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