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「ユウ」
「はいっ、何でしょう?」
気持ち大きく膨らんだテル子が圧をかけてくる。ぼくは背筋をシャンとのばすと両手を膝の上に置き、きちんと姿勢を正してテル子に向き合った。
額の痛みはもうすっかりと無くなったけど、まだぼくの気持ちはこっち側に完全には戻っておらず、緊張がまだ身体から抜けていない。
そんなぼくにはかまわず、テル子はちょっと不自然な感じにぶらぶらと揺れている。
「テル子は、バイトなんてしていませン」
クルクルと回転し始めたテル子を見て、ぼくはやっと人心地ついた。
「わかってる。わかってるって。ちょっと悪ふざけだったよ。ごめん」
身体の力を抜き、少し前かがみになりながらゆっくりと川面に目を向ける。浅い川を流れていく水の流れに反射する光は、さっきより勢いが無くなってきた。ぼんやりとしていると、ふいにテル子が話始めた。
「そして、テル子に兄弟がいるかどうかは、テル子にもよくわからないでス」
テル子の兄弟。
何気なくぼくが口に出したこの言葉だったけど、テル子の答えを聞くと変な感じがした。
幽霊は元が生きていたものだから、親兄弟は確実にいるのだろう。でも、妖怪は?お化けは?彼らはどこからきたのだろう?何から産まれてきたのだろう?最後は消えてしまうとしても、それまでの間に自分と同じ姿のモノに出会うことはあるのだろうか?そもそも、自分と同じ種類と言われるモノの存在を認識しているのだろうか?種類が違うものの認識は?仲間意識はあるの?敵対勢力は?そんなことを考えると、ぼくたち人間はとても不思議な立ち位置にいるのだなぁといつも思う。
テル子はてるてる坊主の姿をしているし、つってくれということはてるてる坊主から派生した…というか、てるてる坊主と何らかの関係がある存在だと思っているけど、それだって本当かどうかはわからないんだよな。
テル子本人にもわからないようなことを、ぼくがどれだけ考えたってわかるわけは無いのだけど。でも、何かがある度に、同じことをぐるぐると考えてしまう。
「だよなー」
テル子に兄弟がいるかどうかわからないという返事に同意しながら、ぼくは大きく伸びをする。
「で、ユウ」
なんでもわかってるわヨとでも言いたげな口調なテル子をチラリと見たぼくは
「だよな」
とひとこと言うと、カバンを掴んで立ち上がる。
「ですよネ」
満足気に答えるテル子は、相変わらずクルクルと回転していた。
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