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ぼくとテル子が隣町にある倉庫に到着すると、目的の倉庫はもう使われていないようで、ボロボロになった扉がいくつも開いていた。
しかし、お目当ての倉庫のすぐそばにある工場は稼働中で、しかもまだ就業時間が終わっておらず沢山の機械が一生懸命動き、大勢の人がまだ作業をしている。
「ですよねー」
今日は平日。それにまだ夕方というには早い時間なのだから、働いている人が沢山いるのは当たり前のことなのに。そんなことすらこれっぽっちも頭に思い浮かんでいなかった自分にがっかりだ。
特別なものになりたいと思って特別な力を貰ったはずなのに、ぼくは全然特別には近付いていかない。どう頑張っても特別にはなれないのかもしれない。それどころか、人が出来ることすらままなっていないんじゃないか。
なんてことを考えていても、何が変わるわけでもないことも知っている。
それに、それよりなにより。こんな大勢の人が働いている工場の前に、ぼんやりと制服を着た中学生がぼんやりした顔で突っ立っているのはかなり目立つ!
ぼくはそそくさとその場から立ち去った。
倉庫から一番近い場所にあるファストフード店でポテトをつまみながら、ぼくはテーブルに置いたスマホでアレについての情報が無いかを検索する。トレイの向こう側にリュックを置き、テル子が画面を覗き込めるようにしてあるので、テル子もぼくと一緒に手元のスマホを覗き込んでいる。
「でも、あの倉庫での目撃情報はどこにも出てないんだよなぁ」
ぼくは大型掲示板の『アレ』に関する情報が載っているスレッドをいくつか覗いてみたけど、アレの噂と比べると目撃情報は物凄く少なくてほとんど見つからない。それに、山田は『先週』アレが目撃されたと言っていたけど、先週の書き込みにも今週の書き込みにもそんな情報は一切載っていなかった。地域の噂の掲示板へ移動しても、『秋川町で露出狂が!』や『眉毛犬発見!』などの情報は沢山あるのにアレの噂はひとつも書き込まれていなかった。
「最近、よく噂になってるって思ってたけど、実際のところはそんなに噂にもなってないってことなのかなぁ」
ぼくはそう言うと、ストローでコーラをひと口吸い込む。
「でも学校ではよく話しに上がってるんでしョ。だったラ、他の学校にも広がってるんじゃなイ?」
「そうだよなー。山田も塾で話しまくってるだろうし」
山田は全国展開されている、超大手の塾に通っていたはず。それに、山田は友達が多い。ついでに言うと、山田が今日アレの話をしていた小野坂も友達が多い。小野坂が食いついたということは、小野坂の周りでもアレの話が広がってるってことで。
となると、結構広い範囲でアレの噂は広まってるとおもうんだけどなぁ。
ぼくはコーラを置くと、ポテトに手を伸ばす。
「でモ、おかしいわネ」
テル子は不自然にならない程度にゆらゆらと身体を揺らしながらそう言った。
「おかしいって何が?」
頬杖をつきながらポテトをゆっくりともぐもぐしつつ、ぼくはテル子に目を向ける。
「噂のアレっテ、出てくるのに条件が必要なんじゃなかっタ?」
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