放課後

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 テル子にそう言われ、アレの噂をもう一度頭の中で流してみる。  夕焼けに空が染まるとき  雨がふったらきをつけて  つってくれといいながら  アレが後ろをついてくる 「ああ。”夕焼けに空が染まるとき雨がふったら気を付けて…”って。本当だ」  噂のアレが出てくるためには、『空が夕焼けで赤く染まった』ときに『雨』が振らないといけないんだ。目撃情報が少ないのは、こういう事情もあったんだなぁ。なるほど。いま気が付いた。テル子なかなかやるじゃん。 「デ。先週、雨が降った日ってあったかしラ?」 「ちょっとまって、調べてみる」  ぼくはそう言うと、スマホを操作して先週の天気を調べ始める。 「……。雨、振ってないみたいだね」  記憶を頭の中から一生懸命引っ張り出してみても、先週の夕方雨が降った日は見つからなかった。 「でしョ」  得意げに不自然な幅で大きくスイングしているテル子を、ぼくは左手で軽くつかんで止める。こら。そんなに大きく揺れるんじゃない。  もしテル子が人間だったとしたら、今ものすごく興奮して鼻の穴を大きく膨らませながらドヤ顔でぼくの方に身を乗り出しているんだろなぁ。テル子がテル子ででほんとうによかった。 「でもさ、この天気情報、範囲が大きいから絶対に正しいってわけでもないんじゃない?」 「どういうこト?」  テル子を掴んでいる左手に伝わってくる圧が大きくなった。  コイツ、膨張することで不満感を表わそうとしてるな。  しかし、これから人がもっと増えてくるであろうファストフード店の中で、手のひらサイズより大きくなられては困る。アレの噂もあるし、テル子の噂は一気に日本中、いや全国に駆け巡ってしまうに違いない。  慌てたぼくは急いで言葉を付け加える。 「だって、どれだけ細かい情報だとしたって、こんな場所に載ってる情報が5分刻みとかそれくらい詳しいとは考えられないじゃない?ゲリラ豪雨みたいな夕立だったら記録に残るかもしれないけど。ぽつぽつ降っただけとか、そんなのもアレの条件としての『雨』としてカウントされるとしたら、この情報だけ信じたらダメな気がする」  左手に伝わってくる圧が緩んだ。よかった。 「そうだネ。ユウ、えらくなったねェ」  なんだそのトゲのある言葉は。  そもそも特別な力をぼくにくれると言いながら、こんなよくわからない力を『特別なもの』だとぼくに与えてきたテル子もどうかと思うけど。  ぼくが残りのポテトとコーラをのんびりと食べ終わる頃、外は夕焼けも終わりを迎える頃だった。  ファストフード店を後にして、ぼく達は一度倉庫を見に行った。しかし、工場の稼働はもう止まって片付けもあらかた済んでいるようだったけど、まだ工場の中には人がいる。あの人たちがいなくなるまでもう少しだけ時間がかかりそうだ。ぼくは背負ったリュックでテル子をぶらぶらと揺らしながら、その辺りを歩き回ることにした。  その時、もうちょっとだけ海沿いに行ったところに公園があったことを思い出した。いつのものかわからない記憶を頼りに、ぼくは公園へのんびり足を進める。
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