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「あったあった」
もう遊ぶ子供たちはとっくに家に帰ってしまい、人がほとんどいない公園。
ぼくはブランコに向ってまっすぐに進むとリュックを降ろして前に抱え、一番端にあるブランコに腰掛ける。両足をつけたままブランコを前後に揺らすと、そのたびに錆びた金属同士がこすり合わされてキィキィという音が鳴り、誰もいない暗い公園に吸い込まれていく。
「ユウ、本当にすきねェ」
抱えたリュックの上にちょこんと座りながら、テル子が話しかけてくる。
「いいじゃん別に。ブンブン漕いでるわけじゃないんだし」
全身をゆだねるのではなく地面に足をつけたまま揺られるブランコが、ぼくは小さい頃から大好きだ。自分のチカラではどうしようもないものと、それをある程度コントロールできることを身近に感じられるこの瞬間。こんなぼくでも影響を及ぼすことが出来ているという感触。
なので、ぼくは高く高くブランコを漕ぐことが好きではない。この世の全てのものに対して、自分の力なんてこれっぽっちも及ばないことを思い知らされているような気持ちになるから。
「それに、我を忘れて『つってくれー』って追いかけてくる誰かさんみたいな情熱はないですよーだ」
笑いながらブランコを揺らしていると、テル子は顔だけ大きく膨らませ、その顔をぼくのほうに近寄せながらシレっとこう言った。
「いいんでス~。ユウも一度つられてみたらいいのニ。そうしたらこの気持ちがわかるわヨ?」
たまにさりげなく恐ろしいこと言うよね。テル子。
ぼくは何も聞こえなかったふりをして、ブランコを揺らし続けた。
「そろそろ行ってみようか」
30分ほどブランコを満喫した後、ぼくはそう言うと立ち上がりリュックを背負い歩き始めた。
1日という時間に比べればほんの少ししか時間が経っていないのに、町の様子はすっかりと変わっている。ちょうど町という入れ物の中の人間が入れ替わる前と後。その境界線を踏まずにまたいだような感じ。
こういう場面は、自分が特別な何かになったような気がするので、ぼくは大好きだ。
「倉庫の中で探すのよネ」
街の空気に融けていたぼくを、テル子の声が現実に引き戻した。
「ん?そうそう。倉庫に隠れてたりすると思う?」
「どうだろウ」
「あっ」
ぼくはその時、思い出した。
「なニ?」
今日は思いつくがままここに来てしまったので、倉庫を探索するための道具なんてひとつも持っていないことを。
「今日さ…言いにくいんだけど……懐中電灯持ってないんだよね…」
「スマホのライトで照らせばいいんじゃないノ?」
「いやぁ、それがさ……」
申し訳なさそうにぼくはテル子の前にスマホの画面を見せる。
「さっきお店で調べものしまくってたじゃん?今日は真っ直ぐ帰る予定だったから、朝からそんなに電池が無くてさ…。バッテリーも家に置いてきちゃったし」
言い訳しながらテル子に見せているスマホの電池マークは赤い細いラインが一本表示されているだけ。まさかこんなことになるとは。
「むウー」
「でさ…明日は山田が倉庫に来るわけじゃん?」
「……」
「今から家に帰ると、もう一回出てくるのは面倒じゃん?」
うちのお母さんは1週間以上前から言っておかないと、夜の再外出を許してくれない。理由はよくわからないけど。
「……」
「だからさ…、非常に頼みにくいんだけどさ…アレ、お願いできない…?
「……」
テル子はあまりアレが好きではないので、ひょっとすると断られるかもしれない。長い沈黙の中、ぼくはテル子に断られたら、明後日の学校で山田に話を聞いて、その後夜にでも調査にくればいいか。と半分諦め始めていた。
そのとき
「仕方ないわネ……」
という声が聞こえた。
「ありがとう!!!マジ嬉しい!さぁ!行こう!」
一気にテンションのあがったぼくと、テンションだだ下がりのテル子。
そんな2人の冒険が今始まる。
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