放課後

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「おじゃましまーす」  ぼくは、小さな声で誰に向かってかわからない挨拶をすると、倉庫の中へとそっと足を踏み入れる。 「テル子だったらどこに隠れたい?」 「とりあえず、端っこのほうかしラ?」 「了解」  カバンから外して手に持ち替えたテル子とコソコソと話しながら、ぼくとテル子はぐるりと周りを見回した。  一足進むごとに”じゃりっじゃりっ”と、足の下で砂の押しつぶされる音がする。鳴り響く砂の悲鳴は、倉庫の中にいる全てのモノに対して、ぼくの存在を大々的に知らしめているかのように響き渡る。  アテレコするなら『犯人はコイツだ。仇を討ってくれ』みたいな?  もちろん、足元の砂の音は悲鳴でもなんでもないし、そもそも実際にはそこまで大きな音なんて鳴っていない。でも、暗闇でいるかいないかわからないものと対峙しようとしているぼくには、ただの足音ですらそれくらい意味のあるものに聞こえてくる。  何とかして恐怖から気をそらしたい一心で、ぼくは片っ端から何でもかんでも意味を持たせていく。そういったもので頭の中をいっぱいにして、怖さを追い払おうと頑張っているのだ。  と誰に言い訳しているのかわからないけど。  ぼくはそんなかんじで壁に沿って歩きながら、隠れられそうな場所を見つけていく。 「でも、こんなに埃かぶってるし。誰も入っていったような形跡ないよねぇ」  壁沿いにある金属製の棚には埃がかなり分厚く積もっているし、地面の足跡だってコレといったものは見つからない。 「でも、歩いているとは限らないわヨ」 「あぁ、確かに」  ぼくが探しているのはアレで、アレは人ではないから普通の一般常識で考えたってダメなのだ。  どれくらいウロウロしていただろう?  かなり広い倉庫の端から端まで調べ終わった。と思う。想像していた通り(?)倉庫の中にはアレの形跡は一つも見つからなかった。仕方ないよね。とぼくらが帰ろうと扉に向かって歩き始めた瞬間、「おい」と懐中電灯の明かりで顔を照らされた。 「?!」  明かりの方に顔を向けたけど、顔を照らされているのでぼくからは向こう側が全く見えない。倉庫の人…?勝手に他人の敷地に入っているし、これはれっきとした『不法侵入』だ。  なんて言い訳しよう。  冷や汗をかきながら、ぼくは頭を必死に回転させた。 ”ボール遊びしていたらボールが倉庫に入っちゃって…”  いやいや、こんな時間にボール遊びしてるヤツやばいでしょ。それにカバン背負ったままだし。色々とおかしい。 ”今度肝試しすることになりまして、その下見に…”  これは確実に怒られる。『もう一度大勢でここに夜入りに来ますからね♪』って堂々と言っちゃってるようなもんだし。ぼくが大人の立場だったとしても怒るだろう。むしろ友達でも本気でツッコむ。 ”犬の散歩してたら、犬が勝手に倉庫に入って行ってしまって…”  犬が勝手に倉庫に入っていくって、リードはどうした!?ノーリードで散歩だなんてダメ、絶対。それに首輪から抜けて行ったと仮定したとしても、ぼくの手元にはリードが見当たらない。  ダメだ。  どれだけ考えてもこの状況をうまく切り抜けられる気がしない。
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