放課後

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 諦めて下を向いたその時、顔を照らしていたライトが下げられ、向こうの人はライトを自分の顔を下から照らすように持ち替えた。 「どうわぁぁぁっぁぁ」  暗闇に浮かび上がる顔。怖い。怖いなんてもんじゃないくらい怖い。  ぼくが情けない叫び声を上げた瞬間、暗闇に浮かび上がった顔は大きな声を上げて笑いだした。  その人はその場で動けないぼくに近付いてくると 「こんなとこで何やってんの?ユウもアレに興味ある感じ?」  と軽い感じで話しかけてきた。  あれ?ぼくの名前を知ってる?知り合い?  よっぽどぼくの反応が面白かったのか、笑いがとまっても思い出し笑いを繰り返しているその顔をじっと見つめると、ソイツは小野坂だった。  彼の名前は小野坂敬之(おのさか たかゆき)2年5組のクラスメイト。  皆彼のことを『ウヤマエ』もしくは『ウヤマエくん』と呼ぶ。どうしてそんなあだ名でみんな彼を呼ぶのか彼と直接話をするまでは意味が分からなかった。でも、彼とはじめて話をしたとき『ウヤマエって呼んで』と言われたので、この呼び方は彼自身がこう呼んでくれと布教していることがわかった。  帰り道で2人っきりになった時、ずっと気になっていたぼくは『どうして”ウヤマエ”なの』と聞いてみた。すると彼は 「敬之の『之』が『え』みたいに見えるでしょ?だから『敬え』で『うやまえ』。なかなかイイと思わない?」  と白い歯を見せながらにっこりと笑った。彼はとてつもなく社交的で、学年全員と中がいいと言っても言い過ぎにはならないと思う。それくらい顔が広い。それに学校で友達のほとんどいないぼくにも友達の温度で接してくれる、ぼくにとっては貴重な『クラスメイト』と呼べる人だ。 「ウヤマエ君はこんなところで何してるの?」  ぼくは怒られる心配がなくなったので、ほっとしながら話しかける。 「え?いや、なんか山田が今日言ってたじゃん?先週この倉庫で『アレ』が目撃されたとかなんとか。ユウも興味深々だったくせに。聞いてないふりしてたみたいだけど、俺にはばっちりわかってたぜ」  ニヤリと笑うウヤマエ君を見たぼくは、何となく居心地が悪くなってニヤニヤと笑ってその場をごまかした。  教室から出るときに感じた視線は間違いでは無かったんだな。ぼくにも少しは特別な力がついてきたかしら? 「山田は今日は塾で来れないって言ってたけど、こういう情報って鮮度が命じゃん?だから、どうしても今日一度見に来たくってさ。それに今日見ておけば、明日山田に得意げに語れるしな!」  ウヤマエ君は一体、山田に何を得意げに語るつもりなのだろう… 「で、ユウ。ここで何か見つかった?」 「いや全然、何も見つからなかったよ。ていうか、アレの正体ってわかってないのに、何を見つけたらいいんだろうって思ってるところ」 「いやいやいやいや、アレって言ったら足が無いんだから、何かを引きずって移動したようなあととか、吊り下げられる紐とかさあ」 「あぁ、そういうのか」  テンションの高いうやまえ君と、テンションの低いぼく。  といっても落ち込んでいるわけでは無くて、普段のぼくと同じくらいなのだけど。テンションの高いウヤマエ君と一緒にいると、ぼくがかなり冷めているような感じに見えてしまう。そんなぼくに対して、ウヤマエ君は全力で漫才師のように 「『そういうの』って、ユウは『どういうの』を探せばいいと思ってたんだよっ?!」  と肩を叩きながらツッコみを入れてきた。  痛いっ。  肩が外れたらどうするんだよ、馬鹿力め。
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