放課後

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「いや、アレを見つけるつもりで探してたんだけどね…」  ツッコまれた肩を抑えながら、ぼくは言い訳をするように小さく答える。そんなぼくを見ながらウヤマエ君が「ユウらしいっちゃユウらしいか…」と小さく呟くのをぼくは聞き逃さなかった。  はいはい、どうせぼくは単純ですよ。 「でも、俺も何も見つけられなかったんだよなー。俺もユウも何も見つけられなかったってことは、この倉庫にはアレはもういないんだろうな。って。前に居たかどうかもわからないけど」  ひとりでうんうんと頷きながら、ウヤマエ君は倉庫の出口へと歩きはじめた。その姿を見たぼくも、慌ててウヤマエ君の後ろ姿を追いかける。  別に一緒に来たわけじゃないし、置いていかれても全く困った事態にもならないのだけど、なんていうんだろう。放課後の教室に残っていたクラスメイトが1人減り、2人減り…としていって、最後に2人残されたうちの1人が教室から出て行こうとした時の、残される側の気持ち。『まだここに居てもいいのだろうか』という罪悪感のようなもの。そんな空気にぼくは取り込まれたくなくて、急ぎ足でウヤマエ君の背中を追いかけた。  倉庫を出るまであと1歩という所まで来たところで、ウヤマエ君はいきなり足を止めた。 「えっ?!」  ウヤマエ君が立ち止まるだなんてこれっぽっちも考えていなかったぼくが急に止まれるわけもなく、そのままの勢いでウヤマエ君に思いっきり顔をぶつけてしまった。  ぼくの身長は165㎝。ウヤマエ君の身長は173㎝。やや俯き加減で歩いていたぼくの顔は、丁度ウヤマエ君の肩の辺り。一番硬いところに思いっきりぶつかったぼくは思わず「いてぇ」と呟き、後ろに数歩よろよろと後ずさった。  そんなぼくの方に振り返ったウヤマエ君は「あ、わりぃ」と言いながらも、視線はぼくの後ろ側、倉庫の奥の方に向けている。 「ん?どうかしたの?」  ぼくもウヤマエ君の見ている方へと振り返り、明かりで倉庫の奥を照らしてみたものの、何も見つからない。 「いや、なんていうか…」  何かの気配を感じでもしたのだろうか?ぼくには何も感じられなかったけど。  ウヤマエ君は空気を読むのがうまい。  だから誰の話でもどんな話でも、ウヤマエ君が会話のメンバーに入っている時は、微妙な空気になった所を見たことがない。お化けが見えるだとか、宇宙人と友達だとか、そう言った話は聞いたことがないけど、ぼくの考える『特別なチカラ』の中にあるものをウヤマエ君は持っているのだと思う。平凡に埋もれてしまわない、特別なチカラ。人を引き付ける特別なチカラ。 「気のせいだ、気のせい」 「ふうん」  ウヤマエ君が気のせいというのなら、気のせいなんだろう。まあ、ぼくにも何も見えなかったし。テル子も膨らんだりして何かを教えようともしなかったし。多分、ここには今は何もない。  扉へと向かおうとぼくがウヤマエ君の方へと身体を向けても、なぜかウヤマエ君はそのままの体勢で止まったままだった。 「気のせい…じゃないってこと?」  何もないとわかっているはずなのに、動かないウヤマエ君を見上げるとなんだか不安な気持ちがジワジワと地面から這い上がってくるような気がする。  しかし、よく見るとウヤマエ君の目線は倉庫の奥ではなく、今はぼくの手元に向けられているようだ。ということは、やっぱり倉庫の中のモノは気のせいということか。  ほっと肩の力が抜けた瞬間、ウヤマエ君はぼくの手を指さして 「ユウ、それ」  とひとこと言った。
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