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ぼくの手には、ギュッと握りしめるのに丁度いい大きさになったテル子が握られている。ウヤマエ君はテル子が気になっていたみたいだ。
「それ、いつもユウのカバンについてるやつだろ?小学校の時からずっと持ってるよな」
ウヤマエ君はぼくの手の中にあるテル子をしげしげと眺めている。中学生男子のリュックにてるてる坊主の形をしたマスコットが付いているのは変だったのだろうか?もしかして目立ってた?
でも、今時『女の子だから』『男の子だから』なんていう人間はほとんどいないし。誰にもからかわれたことも無かったから、ぼくのカバンのテル子の存在をしっかりと認識している人間がいるなんて考えてもみなかった。
「ていうか、それスゲーな!そんな機能までついてんの?!俺も欲しい!」
ウヤマエ君に思いっきり顔を近付けられているテル子の両目からは、懐中電灯のような光が放たれていた。
ぼくが倉庫に入る前、テル子に断られるのを覚悟して頼んだのがこれ。
目からビームのように明かりを出してもらうこと。
こんなことが出来るとわかったのは、小学校2年生の頃。
いつものようにおばあちゃんの家に遊びに行ったとき、これまたいつものように裏山で遊んでいたぼくはあの時、小さな洞窟みたいなものがあるのを発見した。洞窟は小学生のぼくが立ったまま入っていけるくらいの入口があり、どうしても我慢できなかったぼくは洞窟の中を探検することにした。
行きはよいよい帰りは恐いとはよく言ったもので、どんどんと先に進んで行っている時はよかったものの、少し疲れて引き返そうとして立ち止まった瞬間、ぼくは暗い場所に自分が立っていることに気が付いた。
大丈夫。ここまで一本道だったし、ちゃんとひとりで歩いてこれたんだから帰りだって大丈夫。いくら自分にそう言い聞かせても心の中の暗い部分は無くなっていかないどころか、外の暗さと交わってどんどんとぼくの周りの暗闇を濃くしていく。
「どうしよう」
外が暗くなる前に帰らないと、おばあちゃんもお母さんもお父さんも心配してしまう。それに『もう二度と遊びに行っちゃいけません!』なんて言われるかもしれない。それは嫌だ。早く戻らないと。
気持ちは早く帰りたがってるのに、ぼくの足はそこから動かない。
「かえらないノ?」
そのとき、ぼくのポシェットから声が聞こえてきた。そうだ!ぼくはひとりじゃなかった。テル子がいたんだ!
テル子の声を聞いた瞬間、ぼくは張り詰めていた糸が切れたようにわんわんと泣き始めた。
「ユウ?」
なんどもテル子はぼくの名前を呼んでくれたけど、こんな状況で一度泣き始めてしまったらしばらくは自分で泣き止むことなんてできやしない。自分の泣いている声がぼくをますます不安に悲しくさせる。一体どれくらいの間大きな声を上げて泣いていただろう?数分だったような、数時間だったような。
その時、まだまだ泣き止めないぼくの目の前がいきなりピカっと明るくなった。
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