テル子との出会い

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テル子との出会い

 テル子との出会いは、ぼくが小学校へ上がる前の年。毎年のように遊びに行っていた、おばあちゃんの家に行ったときのことだった。  ぼくのおばあちゃんの家は、よく言えばのどかな場所。悪く言えば交通の便が悪く、最寄駅から車で1時間ほどかかるような山の中腹辺りに建っていた。  お隣さんは『お隣さん』と言っても、おばあちゃんの家から1キロちょっとの距離がある上に、山の中腹にあるということもあって、お互いの家からその存在を目で見て確認することはできない。  だから、ぼくは小さい頃からこの『お隣さん』を『お隣さん』と呼んでもいいものかとずっと疑問に思っている。でも『お隣さん』って呼ぶけどね。  そんなおばあちゃんの家に遊びに行くのはとても楽しくて。広いおばあちゃんの家の中だけでなく、家のすぐ横にある畑や裏山では何の遊び道具が無くても、ぼくは一人で一日中でも遊んでいられた。  あの日、おばあちゃんの家に3日ほど泊ったぼくたちは、次の日に帰る予定になっていた。しかしぼくは夜寝る前、帰る準備をしている時に「もっとおばあちゃんちにいたい!」と散々ダダをこねた。いつもは聞き分けがいいぼくが、どれだけなだめてもどれだけきつく怒ってもいうことを聞かず、ずっと「もっと泊る!」と泣き叫び続けている姿に最後は両親が折れた。  「一人で泊まっていられるのなら」それが両親が出した条件。もちろんぼくは喜んでそれを受け入れ、1週間だけぼくはおばあちゃんの家に追加で泊まれることになった。  あの時のぼくは一歩も譲る気は無かったし、なんならお父さんとお母さんに捨てられてもおばあちゃんの家で生きてくんだ!とまで思っていたような気がする。本当に捨てられなくてよかったと今は心の底から思っている。  次の日「じゃあ、来週迎えに来るからね」と何とも言えない顔でぼくに言った後、おばあちゃんに「本当にすみません…ほんとうに…」と何度も何度も頭を下げているお母さんを、ぼくは足元の石を靴の先でズリズリと移動させながらチラチラ確認していた。  お母さんはそんなぼくを見て「やっぱり帰りたい」と言いたいけど言い出せないのではないか?と思っていたみたいで、最後の最後にぼくの前にしゃがみ込んで顔を覗き込み「やっぱり一緒に帰る?」と心配そうな顔で聞いてきた。  でも、ぼくは喜びのあまりうっかりニヤニヤしてしまうのを隠していただけなのだ。帰りたいわけじゃないよ。ぼくはワクワクしているんだ。  お母さんがいると、いつも裏山で遊んでいても「あっちに行っちゃいけない」とか「そっちはやめておきなさい」って言われるけど、お母さんが帰ったら一人で自由に森で遊べるんだよ。そう言いたいのをぐっと我慢して、ぼくは俯いたまま首を横に振った。  何度も何度も振り返りながらやっと車に乗り込んだお母さんと、お父さんを乗せた車がブロロロロ…と走っていき、姿がすっかりと見えなくなったところでぼくは「やったー!」と思わず大きな声で叫んでジャンプまでしてしまった。  やばっ  おばあちゃんに怒られるかな…?と恐る恐るおばあちゃんの顔を見上げると、おばあちゃんはあっはっはと大きな声で笑っていた。よかった。  ぼくはぺろりと舌を出すと、おばあちゃんと一緒に笑う。空を見上げるととてもいいお天気で、太陽もぼく達と一緒に笑っているみたいだった。
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