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白いモノとの距離が縮まるにつれて、なんだか気温が下がって行っているような気がする。
「お日様、出てるのになぁ…」
ぼくは両腕を胸の前で交差させ、それぞれの腕を温めるように擦りながらちょっとずつ白いモノの方へと近付いていく。
「さむっ……」
どんどん寒くなり鳥肌も立ち始め、少しおかしいかもしれないと思いはじめた時、白いものがコチラを見て動きを止めたような気がした。それと同時に
「つってくれよー」
という声が白いモノの方から聞こえてきた。
”たいちょうのおやくそく
3.しらないひととおはなししない”
ぼくはおばあちゃんとの約束を守るために、しっかりと口を閉じた。何も言わない。何も話さない。絶対に。何度も何度もそう頭の中で唱えながら、ぼくは白いモノから見えないように、その場にしゃがんで草の中に身体を隠した。
「そこにいるんでショ?つってくれヨー」
ぼくの存在にしっかりと気が付いているような白いモノは、何度も何度も「つってくれヨー」と、向こうから見えていないはずのぼくに話しかけ続けた。
何だろう?
つってくれってなんだろう?
白いあれはいったいなんだろう?
ウサギにしては耳が無かったような?
そもそもウサギ、喋らないし。
それにお日様が出てるのに、どうしてこんなに寒いの?
色々な考えが頭の中をぐるぐるしているまま、ぼくはじっと隠れ続けた。しかし、しばらく隠れていてもあの白いモノは話しかけてくるもののこちらに来る気配は全然しない。もしかすると、あの白いモノはこっちに来れないんじゃ?そう思うとぼくの心には「あの白いモノの正体を知りたい」という気持ちがむくむくと湧き上がってきた。
隊長のお約束でも「おはなししない」はあったけど「見ちゃいけない」っていうのは無かったし。そう自分に言い訳をすると、ぼくはすっと立ち上がって白いものがいた方へと顔を向けた。
てるてるぼうず?!
そこには、ぼくと同じくらいの大きさのてるてる坊主が一人(?)こっちを向いて立っていた。あれ?さっきまで草に隠れるくらいの大きさだったんじゃ…?ていうか、ぼく丸見えだった?
「なに……やってるの?」
思わず口にしてしまった後で『あ、喋っちゃった』と思ったけど、てるてる坊主は『知らない人』じゃないからセーフ。
「なにっテ?アナタこそ、こんな場所に来ちゃいけないんじゃないノ?」
てるてる坊主はゆらゆらと体を揺らしながらこちらに顔を向けて立っていた。正確に言うと、足がついていないから『立っているかのように浮かんでいた』かもしれない。
「キミ……てるてる坊主?」
都合の悪い質問には応えず、ぼくは思っていることをドンドンと聞くことにする。
「えぇ、そうヨ」
「さっき話してたのもキミ?」
「えぇ、そうヨ」
「ここで何してるの?」
「なにかしらネ」
「どうしてここにいるの?」
「どうしてかしらネ」
「いつからここにいるの?」
「いつからかしらネ」
話を聞いてもよくわからない。そう思いながら、ぼくはてるてる坊主が同じ場所から動かないことにふと気が付いた。
「キミ、動けないの?」
ぼくがてるてる坊主に話しかけると、てるてる坊主は視線を自分の足元に落とした。
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