テル子との出会い

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 するとその時、今まで可愛い話し方をしていたてるてる坊主が急に恐ろしい化け物のような低い声を発した。 「つってくれよー」  その声はねっとりと体中に纏わりつくような、首筋にぺとりと張り付くような。お世辞にも気持ちがいいとは言えない、普段聞きなれている”ヒト”の声とは違う異質なモノで、ぼくの毛穴という毛穴は立ち上がりそして一気にねばついた汗を噴き出し始めた。 「うわぁぁっぁぁぁぁっぁ」  ぼくはてるてる坊主を放り投げると、一目散におばあちゃんの家へと向って走り始める。ぼくのすぐ後ろにてるてる坊主がぴったりと寄りそうようについてきているのがわかる。何度も何度も耳のすぐ後ろで「つってくれよー」と繰り返す。こわいこわいこわいこわい。 ”たいちょうのおやくそく 3.しらないひととおはなししない”  破るんじゃなかった。やっぱり”じゅんしゅするべききそく”だったんだ。てるてる坊主に知り合いなんてひとりもいない。てるてる坊主は全員知らない人だ。約束破ってごめんなさい。おばあちゃんごめんなさい。ごめんなさい。  必死に家まで辿り着くと、ぼくは急いでおばあちゃんの家の中に駆け込んだ。  後ろを振り返ると、てるてる坊主はおばあちゃんの家の中までは入ってこれないみたいで、家の周りをウロウロしている。 「よかった……」  はーっと大きなため息を付くぼくの横に、いつのまにかおばあちゃんが立っていた。 「どうしたの?何かあった?そんなに怖いものを見たような顔して」  心配そうにぼくを見下ろすおばあちゃんには、今日あったことなんて言えない。そう思ったぼくは 「何でもない。手、洗ってくるね」  そう言うと、逃げるように洗面所へと走る。 ”たいちょうのおやくそく 4.かくしごとはしない”  はぁ。ふたつも破っちゃった。本当にごめんなさい。  その日、ぼくはなるべく明るく、何事も無かったかのように1日を終えたつもりだったけど、おばあちゃんには全部バレていたんだと思う。でも、なにも言われないのをバレていないと信じた小さなぼくは、てるてる坊主とのやり取りで感じた緊張による疲れもあり、ぐっすりと朝まで眠った。  次の日、すっかりと昨日起こった事を忘れていたぼくはお昼ご飯を食べた後、昨日とおなじように裏山へ行こうと靴を履いて玄関を出た。 「あっ…」  まだいる……  裏山へ続く道から少し離れた場所でふよふよと浮かびながら、てるてる坊主がなんだか寂し気な雰囲気を醸し出しながらぼくの方をじっと見つめている。ような気がした。  見た感じ、今のてるてる坊主はぼくと同じくらいの大きさだろう。見るな。目をそらせ。そう思っているにもかかわらず、ぼくの目はてるてる坊主からは少し離れるものの、視界からは外そうとはしない。なので、ぼくはしっかりとてるてる坊主の存在を確認しながら歩き始めることになってしまった。  ぼくが一歩進むと、てるてる坊主も一歩ぼくに近付いている。ような気がする。でも、近付いている気配がするにもかかわらず、ぼくの視界に映っているてるてる坊主の大きさは変わらない。  なんでだろう。  不思議に思いながら歩いていると、いつのまにかぼくの目と鼻の先にてるてる坊主がいた。でも大きさは見つけた時から変わらない。 「ちっさ!」  ずっと気が付かないふりをしていたのに、ついつい思わず声を出してしまった。
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